ハイスクール・チルドレン


「なあ、今どんな気持ち?」

蜂蜜みたいな金色に染まった教室で一人本を読んでいると、突然の訪問者に会った。
私の隣に立って、青峰君はふてぶてしく言う。

「どんな気持ちって?失恋したばっかの人に一番きいちゃいけないことよ、それ」

本から一切目を離さずに答えたら、本を奪われてしまった。立ちあがって奪還しようとしたけど、無理だ。腕を上げられてしまったらどうしようもない。私と彼のリーチにはあまりにも差がありすぎる。

「ちょっと、返して」
「でもさ。名前さん、全然いつもと変わんねーじゃねえか」

私の言葉はガン無視で勝手に話を進めるこいつは、どこまで横暴なんだ。けっこうしつこいから、きっと答えるまで同じことを聞き続けるんだろう。やれやれだ。
このガングロクロスケめ、と心の中で悪態をついた。

「別に、告白してふられたけど、このことを知ってる人なんて私と相手と青峰君くらいだから茶化す人も居ないし。もともと、諏佐は言いふらすような人じゃないから。
………それに、私はむしろ今の方が楽しいのよ」「はあ?」

青峰君はなんでだよ、ふられたんだろ、とでも言いたげな顔をしている。「青峰君にはまだ早いかな?」私は笑った。

「昔は、諏佐のことが好きでも、それを決して認めず、隠して過ごしてた。でも、今は違う。告白して、ふられちゃったけど、彼は私の気持ちを嬉しいと言ってくれた。そこではじめて、私は好きで良かったんだって思えたの。だから、私は今の方がよっぽど楽しい」

告白して、付き合えないって言われて、そうですかって諦められるものじゃない。そんなことで消えるほどの淡い思いじゃない。
彼は優しい人だ。私の思いをちゃんと受け止めてくれた。だから、やっぱりまだ諦めたくなくなったんだ。

「私は、この学校を卒業しても、この気持ちから卒業するのはまだ先でいい」

最後に、微笑みながらそう付け加える。青峰君はいらだっている。
「それなら、きくけどな」青峰君の声は微かに震えている。

「もし、いまあんたの目の前に、どんなに他の野郎が好きでも俺はお前のことが好きだって言う、馬鹿な後輩が現れたら、どうする」

パッと彼の顔を見上げる。そこには、眉間にぎゅっと皺を寄せて、今にも泣き出しそうにも見える生意気な後輩の姿があった。

「まだ此処にいろよ。そしたら」

俺が忘れさせてやるのに。その言葉が言い終わらないうちに、腕を引かれた。すこし痛いくらいの力で抱きしめられる。


ごめんなさい。
私は、あなたの背中に腕をまわすことができないよ。