「恐れ入ります。チョウジジムのシルバーという人に話があります。面会をさせていただくことはできませんでしょうか。」
昼過ぎにチョウジジムに現れた男は開口一番に用件だけを伝えた。受付をしている職員は戸惑いを隠せずに一瞬固まってしまった。が、すぐに平静を取り戻しマニュアル通りの対応へと戻った。
「失礼ですが、アポイントメントは。」
「ありません。」
「申し訳ありません。ジムリーダーとの面会は事前にアポイントメントがないと…。」
約束がないのなら体よく追い返せると受付の職員は内心安堵した。しかし男は少しの間考えるように黙り込み、それから再度口を開いた。「__では、ジム戦を望みます。レベルはバッジ8つ分でお願いします。」バッジ8つ。それはこのバトルの世界においてかなりの実力を持つ者でであるということの証明だ。挑戦者は口先だけではないと言うように背負っていたボディバッグの中から円形のケースを出した。受付の者がそれを受け取り中を開けるとその中には光輝く黄金の中に各専門タイプを模しているであろう文様が彫ってあるバッジが7つだけ、ぴったりと収まっていた。それはジョウト地方のものでなく、ましてやカントー地方のものでもない。受付をしている者が今まで見たことがないバッジだった。一体どこから来た人なのだろうか、なんて考えているとそれだけでは証明になりませんかと問われたのですぐに了承の返事を返した。
「いえ、十分です。バッジ8つ分のレベルですね、承知いたしました。」
そう言ってから挑戦者を受付の奥、ジム内へと通じる道へと案内する。男はバッジケースをボディバッグに戻しながらその後をついて行った。
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シルバーは静かにモニターを眺めていた。それは監視カメラが読み取った映像。ジム内部の至るところに配置している監視カメラは挑戦者に不正行為がないかの確認、そして実際どの程度の実力があるのか見極めるためのものだ。
今回の挑戦者はすでにバッジ7つを所持している者だと受付の者から連絡を受けていた。それがたとえ他地方のバッジだとしても実力としてはジョウト地方の7つ分…つまり自身が担当しているチョウジジムを突破するものと何ら変わりはしないだろう。挑戦者の的確な指示、それに応えるポケモンの動きや技の精度、そして挑戦者とポケモンの表情。今回の挑戦者のそれらは先に提示されていた実力、あるいはそれ以上の実力を持つ者と言われても信ずるに値するものだった。
シルバーの脳裏にとある人物の顔が浮かぶ。若かりし頃に協力者として関係を持ち、その数年後に神と呼ばれるポケモンと相対したそれ以降、現在に至るまで会うことのない男。行方など誰も知らない。いつしか記憶や年月と共にその存在すら知らぬ間に風化して消えていってしまいそうな、そんな立場の人だった。
しかし目の前(実際には液晶越しだが)にいる彼はどうだ。奇しくもその人に似ているような、そうでないような。それこそその人物の生存を意味しているような…。
「…まさかな。」
シルバーは自身の脳内に浮かんだ考えをすぐに否定した。
だってそうだろう。ありえない。挑戦者が受付で提示したあのジムバッジはあの地方のジムバッチだ。外見から似ていると感じたがすぐに血縁だと考えていいものだろうか。トキワに生まれ、フスベと関わりがあったあの人がその地方に向かう理由がない。…いや、絶対にないと断言はできないが、単純に考えればその可能性はゼロに等しいだろう。
そろそろ出番だというジムトレーナ―からの呼び出しにああと返事をし、挑戦者のレベルに合わせたポケモンが入っているボールをホルダーの中に納める。
他人の空似。そうに違いない。動揺するな、これからはジム戦だ。自分にそう言い聞かせてシルバーは部屋を出て行った。