科白がきまんない


「お、おはよう…?」
「おはよう。時間通りだな。」

朝というには若干遅いこの時間におはようという朝の挨拶を交わした私たちは、アルゴくんの「行くぞ」という声で二人並んで街を歩き始めた。
あのアルゴくんのジム戦の日。私が二人の前に到着するまでに主要な話は終わっていたようで、私とお父さんの関係性を説明した後、お父さんは私に頼み事をしてきたのだ。

『三日後、空いているか?空いているのならこいつに同行していってほしい。場所はこいつが知っている。ベリーはその場所にたどり着くまでの手伝いをすればいいだけだ。…できるか?』

その頼み事に私は首を縦に振ってしまった結果、今ここにいるわけなんだけれども…。いやお父さんの頼み事なんて断れるわけないんだけどね。
私たちは今タンバシティの港に来ている。朝からの長距離移動は疲れた。アサギではなくわざわざタンバを指定してきたのは何故なのかとアルゴくんに聞いてみたが、その答えは『目的地に近いから』らしい。

「ねえ、今日はどこ行くの?そろそろ教えてよ。」
「………うずまき列島。」
「え、飛んでいくってこと?」
「そういうことだ。今のうちに休んでおけ。空を飛ぶ用のポケモンのコンディションも確認しておけよ。」

アルゴくんはそう言うとボールの中からポケモンを_ボーマンダを出して体調の確認をし始めた。私もそれに倣ってワタッコをボールから出した。外に出れたことが嬉しいのかワタッコはしばらく私の周りを浮遊してもふもふしている部分を私の顔にぐいぐいと押し付けるという、構ってちゃんのような謎の行為をしていた。が、アルゴくんの存在を認識してからは私の時と同じようにアルゴくんの周りを飛んで押し付けるというものをし始めて私は冷や汗をかいた。やめて、気を損ねたらどうするの?!
しかしアルゴくんはワタッコの構って攻撃を意に介さず、されるがままという状態でボーマンダに食事を与えていた。無視をされているようにも見えて少し可哀そうだが、私の心配は杞憂だったということだ。安心して一息吐くとアルゴくんはワタッコの構って攻撃を受けたまま私に話かけてきた。


「お前のワタッコ変わってるな。」
「私もそう思う。」


・・・・・・・

「待ってワタッコ!前見て前!アルゴくんは後でも見れるから前!前!!」


時間は丁度正午ごろ。早めのお昼ご飯を済ませた私たちは海の上を飛んでいた。
海上デートと言えば聞こえはいいだろう。けれどもここは41ばんすいどう。細かく言うならば『うずまきれっとう』付近の海上だ。近くの島は全て無人島、落ちて溺れたらひとたまりもない。メノクラゲたちの餌になってしまうだろう。そんなことを考えてぞっとしながら真面目にまっすぐ飛ぼうとしないワタッコに大声で注意する。どうやらワタッコは自身に構おうとしないアルゴくんのことを何故か気に入ってしまったようで、ボールから出した時から今この瞬間もアルゴくんの方を見続けているのだ。それはまるで恋…ではないね。ワタッコはオスだし、どうせ『この俺を構わないなんて…ふーん、おもしれ―男』みたいな感覚なのだろう。私もネープルもお父さんも最終的には結局構う人間なのできっとアルゴくんのように構わないタイプが珍しいのだと思う。

「おい、右方向にある4つ目の島が目的地……まだ見てるのかワタッコは。」
「ごめん。」
「いやお前が謝ることじゃ…、島についたらみずタイプのポケモンを用意しておけ。シルバーさんから預かっているんだろう?」

アルゴくんからの問いかけに私は頷いた。バッグの中に入っている、私のものにしては少し年季の入った2つのモンスターボール、その中にはお父さんの手持ちポケモンであるギャラドスとキングドラが入っている。
何故みずタイプが2匹も必要なのかは分からない。詳しいことは何も聞いていないし、アルゴくんも必要最低限のことしか教えてくれないからだ。

「こ、れは…。」

到着した島を見て私は絶句した。遠目で見た時は水のアートみたいで綺麗だなと呑気なことを考えていた。が、近くで見ると荒々しい岩肌だらけ。ロッククライミングをしろだなんて言われたら10人中10人が首を横に振るだろうと思われるような断崖絶壁だった。


「へ、変な場所…。」
「ああ、俺もそう思う。…隠れ家が必要だったのか?」
「隠れ家って何の?」
「……さあ。俺が分かるはずもない。」


私の呟きに一部だけ答えたアルゴくんはそういうとその島の降りれるような場所めがけて急降下していった。着地しろってこと?
聞けなかったのは『誰の』隠れ家なのか。『誰の』考えが分からないのかというところだった。が、私はそれ以上追求できなかった。アルゴくんが私に『たきのぼり』と『うずしお』のわざを持つポケモンを出せと言ったからだ。私は言われるがまま、お父さんから借りたキングドラとギャラドスを出して技を命じた。同時にアルゴくんもラプラスを出してなみのりを指示する。
水が魅せる3種類の技がぶつかり合い、元々そこにあった水の壁に接触していく。激しい水しぶきが上がる中、そこに見えたのはこの島の内部に入ることができるであろう入口のようなものだった。
__ここが、目的地、だよね?そう思いながらアルゴくんの方を向くと彼は静かに頷いたので、私はその中へ入るために一歩を踏み出した。様々な大きさの岩が辺りに散乱して歩きにくかったが、私は先を歩いているアルゴくんに置いて行かれたくない一心で一生懸命後をついて行った。

中に入ってから何分経っただろうか。それまで通ってきた道や見つけた辛うじて部屋と呼べるような広さの間とは違う、以前人が使っていたであろう痕跡のある空間を見つけた。
玉座のような形の椅子と、そこに上がるための段差。どう考えても自然発生したものではないだろう。
これが今日の目的なのかな。きょろきょろと辺りを見ても不審なものは特にないし、玉座に近づいても何も起こらない。いつごろ使われていたのかな。歴史的ナントカ、みたいなものじゃないのかなこれ。ツクシ博士とか好きそうだな。教えてあげたいけど、勝手に言うのは駄目だろうし、一応アルゴくんに許可取っておこうかな。

「ねえ、アルゴく」
「…___、」
「え?」

今、なんて。アルゴくんが呟いた言葉が私には衝撃的なものだったのもあり、反射的に聞き返すと、彼は驚いたような、困ったような表情をして、忘れろと言ってきた。

「帰るぞ。俺の目的は終わった。今日は付き合わせて悪かったな。」
「う、うん。いや、別にいいよ。これくらい。」

何故彼がこんな辺鄙な場所に来たかったのかなんて、彼の事情も何もかも知らない私には何にも分からない。きっとこれから先も分からない、と思う。彼が話してくれない限りはだけれども。
けれども、彼がか細い声で、弱々しく、たった一つの何かに縋るように『お父さん』と呟いていたこと。彼の背中がとても小さく見えたこと。それだけは事実としてここにあって、私はそれを見てしまったのだ。
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