「ベリー、もうちょいテンポ早くできね?ちょい疲れる。」
「わたし、体力馬鹿じゃないからっ、あんま余裕ないんだけど!ネープルが合わせてくれない?」
「「…………」」
二人が走っているのは長い直線の道。しかしただの道ではなく、地面にはベルトコンベアのようなものがついており、一度足を取られたら大惨事が確定することが丸わかりである道だ。そこを二人は隣り合わせで走っていた。
『次世代』初代図鑑所有者の三人は究極技習得のためにカントー地方のナナシマという場所に訪れていた。
今ネープルとベリーがいるここは『跳ノ道』と呼ばれるエリア。ポケモンの技の基本である足腰を鍛えるためのところで、トレーナーとポケモンの両方を鍛えることによって新たな強さを手に入れる場所だ。
「負けるかよおおおおおおおッ!」
叫ぶネープル。それに置いて行かれたくない、足を引っ張りたくないとベリーも必死に隣で走っている。一心不乱に無我夢中で、でも隣の呼吸だけは意識をして。一回足を取られたら全てがお終いというプレッシャーに押しつぶされないように二人は足を動かす。動かして動かして、上がらなくなるところをなんとか我慢して。1.1kmという決して短いとは言えない距離を完走するために必死に前を向いて走り続ける。規定の距離に到達した二人は転がり込むように地面に倒れた。
「よお、お疲れさん。」
ぜえぜえと苦しそうに息を吐いては吸ってを繰り返している二人を出迎えてくれたのは最早おなじみという存在になってしまったもう一人の図鑑所有者のアルゴだった。地面にへたり込んで荒くなってしまった息を整えている二人を見下ろすように現れたアルゴにネープルは声を荒げた。
「何でアルゴだけ修行してねえんだよ!格差!ズル!こっち来いよばーか!」
「俺は腕輪をつけた瞬間にその腕輪が外れ、修行はしなくていいと伝承者殿に言い渡されたからな。指導者の言いつけを守らないと破門になるのが普通だろう。下手なことはしないからな、俺は。」
「いーやその待遇は贔屓だろ!何で優雅に椅子に座って茶ァしばいてんだよ!やっとの思いで試練をクリアした俺たちがひいひい言ってる様を見て楽しいか?!」
「楽しくないと言えば嘘になる。」
「ベリー止めるなよ、俺はこれが終わったらあいつの顔面殴るから。」
「止めるよ…。暴力反対…。」
「人間同士の暴力沙汰はやめなさい。醜いったらありゃしないわ。」
ギャーギャーと元気よく騒いでいる三人の近くに、緋色の髪を揺らしながらネープルとベリーのところへ歩み寄ってくる女性がいた。「…その腕輪は身に着けている者の実力が一定のラインを超えないと外れない仕組みになっているの。彼の場合、すでに究極技を取得できる力を持っていたということなのでしょう。」そう答える彼女の名前はリカ。このナナシマ、2のしまで実力あるものに対し究極技を教えている今代の究極技の伝承者だ。伝承者という古めかしい肩書に反して白いシャツに黒いタイトスカートという今時のできる女性といった服装をしている、三人よりも年上の女性だ。
「それに彼って顔もいいんだもの。顔も強さも私の好み。贔屓して何が悪いの?」
「顔面格差だよおお!何が究極技の伝承者だよ婚期逃したから年下狙ってるただの女じゃんこえーよ!」
「失礼ねこのガキ。凍らせようかしら。」
「ネープル失礼だしよく聞いてよ!実力差とも言ってるよ?!ジムバッジを複数個所有しているアルゴくんとジムバッジゼロのネープルじゃ扱いが違っても不思議じゃないでしょ?」
「うええええ何気ベリーも酷いよおおおおおお!」
「俺の実力を認めてくださったのはとても嬉しいのですが後半のことに関しては…その、すみません。俺はカロスに待たせている人がいるので貴女の気持ちには応えられません。」
「あら残念、フラれちゃった。」
「アルゴの恋愛話は俺の地雷ですヴェアアアア」
「ネープル汚い。」
そうやっていつも通りのテンションで会話をしている三人を見てリカはため息を引きながら口を開いた。「少し休憩しましょ。熱すぎて私も疲れちゃった。」十分に休んだと思ったら連絡頂戴。リカはそう言ってボールの中からポケモンを出し、2のしまから出て行った。実家のある4のしまに行ったのだろうか、まあ考えても無駄なことだなと思いながら、三人はその場にしゃがみこんだ。
「アルゴもやれって。お前でも絶対キツイから。」
「確かにずるいよ、一回やってみてよキツイから。」
「別にいいぞ。まあ俺はお前たちみたいなやわな体じゃないんで多分大丈夫だと思うんだが。」
「ッ…!!!」
「ネープル、悔しいからって下唇を噛んで恨めしそうな変な顔しないで。」
休憩がてら適当に雑談をしている三人。出会った当初からすればありえない状況だが…まあ、この1年間色々あったのだ。遠慮も何もなしに雑談ができるくらいには仲が深まった、それはとても微笑ましくいいことだ。
だがそんな三人に向かって全速力で向かっていく存在がいた。微かに聞こえる風を切る音。それにいち早く気づいたのはこの中で一番場数を踏んでいるアルゴだった。
「ベリー頭下げろ!」
アルゴからの突然の指示に動揺するベリーだったが、ポケモンバトルにより鍛えられた反射神経によりすぐにしゃがみ、寸でのところで『何か』を躱した。一体何がと三人が顔をその何かの方に向けると、そこにいたのは____
「…黒い、リザードン…?」
__そこにいたのは『かえんポケモン』、リザードンだった。