きみを待つ極夜


ばちり。眼の奥で何かが弾けた。
線香花火のように激しく弾け始めたのも、いつもの車酔いのような感覚も一瞬だった。
その一瞬で見えた未来。それはこの単調な日々を彩るには何とも鮮やかすぎるもので。若々しくて、眩しくて。

「兄ちゃん、どうかした?」

薬を片手に弟がそう問うてきた。時計の針は11を差している。明日の朝にあるジム戦のことを考えると体のことを考えてもうそろそろ寝なければいけない時間だった。
しかし、悲しい哉。この身はつい先刻見た映像に心を動かされている。脳も眼も覚醒して、寝るだなんて行為が素直にできるとは思えなかった。弟が差し出してきた薬と水を受け取って、胃に流し込んで。ああ、外はさすがに冷えるかな。羽織も持っていこう。
さあ、今日家でやらなければいけないことはもうない。もう僕を縛るものはどこにもないし、縛られる理由もない。

「気が変わった。」
「え?」
「日が昇る前までには帰ってくるよ。」
「え?ちょ、ま、兄ちゃん!」

弟の懇願するような声色の叫びをBGMに夜に駆ける。とっくの昔に日は沈み、繁華街にはギラギラと品のない明かりが灯っているこの時間帯に、大胆に家を飛び出す。行き先は___知らない。ただ駆け出したかった。じっとしていられなかった。理由なんて、それで十分じゃないかな?
ボールの中からピクシーを出し、テレポートを指示する。着いたのはエンジュの街全体が一望できる少し高い丘の上。幼い頃からの僕のお気に入りの場所だ。
その丘の上に立って、大きく息を吸い込んで、吐く。肺の中が少し冷たい外気に侵される。そのせいで少し咳き込んだけれども、まあそんなものは最早日常茶飯事だ。倒れないならどうだっていい。些細なことだ。

___一瞬だった。
いつもは数十秒に亘って襲ってくる車酔いに似た浮遊感も、眼の奥を熱くさせる火花も、頭の中に流れてくる映像も、全てが一瞬だった。今までほとんどろくなことしか教えてこなかったこの未来視も、たまにはいいことを伝えてくれるじゃないか。
赤髪のあの子は知っている。ドラゴンポケモンを持つ彼には出会っている。今夜空に瞬いている星のように明るく輝かしい表情を浮かべる捕獲屋の君にも、もう会っている。

「待ってるよ、ベリーちゃん。それにアルゴくんとネープルくん。」

あのジムの、薄暗い闇の奥深くで僕は待ってるよ。必ず来る未来を思い頬を緩めると、いつの間にか勝手にボールの中から出て僕の隣にいたゲンガーも歯を剥き出しにしてにししと笑った。
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