ハートビート・エッセンス


「「リオン、リアン、誕生日おめでとう!」」
「ありがとう、嬉しいよ。」
「ありがと!ってかケーキは?ケーキ食べてえ!」

パンッという軽い音に合わせて色とりどりの紙吹雪が部屋の中に舞い上がる。
輪の中心で笑顔で感謝の言葉を返すのは二人の少年だった。四月二日の今日この日に誕生日を迎える双子___リオンとリアンは、ホウエン地方ではわりと有名な両親を持つ子供だ。そんな二人を祝うために多くの友人たちが集まって来ている。お菓子を持ち寄り、一緒にゲームをし、皆がお金を出して買った小さいケーキを分けて食す。
あー、ほんと楽しい時間!この時間が永遠に続けばいいのに!
双子の弟、リアンはそんなことを考えていた。美味しいケーキがあって、お菓子があって、大人数のゲームも楽しいし…何より、最愛の兄が笑顔で隣にいるのだから!と。
しかし現実は無常であった。この楽しい空間をぶち壊すかのように鳴り響いた着信音。それはリオンとリアンのスマホロトムからのものだった。

「……任務だね。」
「チッ!こんな日に任務とかマジ最悪だろ、空気読めよ。」

メールボックスに入った新着のメッセージ。それは二人が所属しているポケモンレンジャーのホウエン支部からのものだった。簡潔的に書かれたそれが意味するもの。それ即ち『出勤』である。リオンは文面を隅々までしっかりと読んでいるが、リアンは苦虫を嚙み潰したような顔をしてスマホの画面を落とした。

「もしかして行っちゃうの?誕生日なのに出勤なんて大変だね。」

二人にそう話しかけてきたのはこの場に集まってくれた友人たちの中でも群を抜いて仲の良いミノリだった。三人は父親同士が仲の良い友人で、物心つく前から一緒に遊んでいた仲だ。二人の表情からどういうものが来て、どのような内容だったのかなんて簡単に察することができる。

「うん、せっかく開いてくれたのにごめんね。…レンジャーの仕事は不規則だからね。けれど、俺はそんな仕事の手伝いができることを誇りにおもっているよ。」
「ふーん、そういうモンなの?リオンがいいなら俺は止めないけどさ。」
「そういうものだよ。ミノリ、また今度会おうね。積もる話もあるし。」
「じゃーなミノリ!また今度遊ぼうぜー!」

そう言って今日の主役である二人は現場に向かうために去って行った。残された友人たちは顔を見合わせ、どうしようかと言葉を漏らしたのであった。


・・・・・・・・・

「失礼します。あなたが我々に依頼したご婦人でしょうか?私たちはポケモンレンジャーです、よろしければ依頼された内容をお聞きしたいのですが…。」
「あら、あなたたちが…?!やだ、随分とお若いから、驚いてしまったわ。そうねえ、むこうに…見えるかしら?大きくて古い建物があるでしょう?そこにはもう随分前から誰も住んでいなくてね?野生のマンキーたちが何匹か住み着いているのだけれど…、二・三日前から夕方になるとマンキーの鳴き声が聞こえるのよ。野生と言えど狂暴な子たちじゃないから今までそんな騒ぐだなんてことなくて、少し気になってしまって。」

一応見て来てくれないかしら、と依頼主である老齢の女性は申し訳なさそうな顔をして二人に頼んだ。
__図々しいババア。気になるってだけで呼ぶなよ、面倒くせえ。自分でなんとかしろや。
リアンは心の中で目の前の老齢の女性に対して毒を吐いていた。申し訳なさそうな表情を取っているのが尚の事その苛立ちを増幅させる。こちらは一年に一度のビッグイベントを中断させてまでこんなところにまで駆けつけてきたのだ、それでコレとかふざけてるにも程があるだろ。以上がリアンの主張である。女性が段々と憎らしく感じてきたリアンはふつふつと沸き上がってきた不満を女性にぶつけようと口を開こうとした瞬間だった。

「…分かりました。では私たちがその建物の様子を見てきます。」

リアンが口を開くより先にリオンが一歩前へ出て女性へ応対をした。そしてそれでも何か言いたげな様子のリアンを一瞥し、「行くよ。時間が惜しい。」と言いその建物がある方向へと歩き始めた。どんどんと先に進んでいくリオンを見てリアンは待ってよと焦ったように後をついていくのだった。


「待ってよリオン!早いよ!」
「…そうだったね、ごめん。」
「いやいいよそんな謝らなくても!…はぁ〜あ、溜息でるよ。チッ、それくらい自分で見てこいや。人使い荒いだろ。」
「………何を感じるかは個人の自由だけれど、それ、絶対あのご婦人の前で言わないでよね。」


兄の忠告をリアンは聞き過ごした。何かを言ったのは分かった。だがその言葉が何を思って言ったことだったのか、何故それを言ったのか。それらが分からなかったのだ。一般的に一人旅などが許可される年齢である十一歳になったとはいえ、リアンはまだまだ子供であった。まだ周りが見えていない自己中心的な子供。逆にリオンの方が異常なほど大人びている、あるいは達観しているのか。
しばらくして二人は件の建物のすぐ側まで辿り着いた。寂れた屋敷だ。だが室内は蜘蛛の巣が張られているくらいでさほど荒れていない。依頼主の女性が言っていた『狂暴なマンキーではない』という言葉は真実だったかとリオンは思った。

「なんもねーじゃん。来て損した。あのばあさんになんもないって言って帰ろうよ。」
「待って。一応辺りをもう少し見てからにしよう。それで何もなければそう報告するまでだけどね。」

マンキーの姿は見当たらなかった。だがそれは玄関の扉がある方面だけの話だ。少し離れたところから何かの鳴き声が聞こえるのをリオンは感知していた。屋敷の裏にでもいるのかもしれない。そう思ってまた歩み始める。リアンは兄の後を着いて行くだけだ。
結果として先に言ってしまうと、マンキーはこの屋敷にいたのだ。リオンが聞いた鳴き声もマンキーのものだった。屋敷の、方角で言うと西側の方だった。そこに彼らはいたのだ。
ああ、いたのか。じゃあこれで依頼は終わりだ。リアンはそう思ってこの場から離れようとした。マンキーに外傷があるようにも見えないし、騒いでいるという話もただ陽気なせいかくのヤツがリーダーに成り代わって組織の方向性が変わったからだろうと思っていたのだ。
しかしリオンは違った。とある一点を見つめてキャプチャ・スタイラーを握りしめたのだ。リアンはそんなリオンを見て、体を少し動かして彼の視線の先を見た。
ああ、確かに、これが見えていたのなら放っておけないだろうな。リアンはそう思って、リオン同様、腰ベルトに付けていたキャプチャスタイラーに手を伸ばした。
そう、二人は見てしまったのだ。ムウマという、この場における不純物の存在を。


「行くよ。」
「オッケー!ムウマキャプチャで任務終了して!早く家帰ろうぜ!」


そのムウマは下卑た表情で、マンキーを嘲るような声で笑う。ムウマは元々人間のような鳴き声で人を驚かすのが好きなポケモンだ。今発している嘲るような鳴き声も人間のものに近く感じ、聞いていて不快になるものだった。群れのボスであろうマンキーの後ろに小さくなって隠れて震えている子供のマンキーの存在を認知してからは、尚の事。
おそらく、『近頃夕方になるとマンキーたちが騒ぎ始める』というのはこのムウマたちが関係しているのだろう。夜頃にかけて活発になるのがゴーストタイプのポケモンの習性だ。きっと、いや、どう見てもこのムウマが原因に違いないと、そう二人は解釈した。

「「キャプチャオン!」」

そう言うと二人はキャプチャスタイラーからキャプチャディスクを射出する。それはぐるぐると円を描くようにムウマの周りを囲んでいった。
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