メルトダウン・シンドローム


無事にムウマをキャプチャし、マンキーたちをムウマの恐怖から救い出した二人は、依頼主のご婦人とポケモンレンジャー協会に終了したことを報告し、家路についていた。

「楽しかったね、今日!…まあ少ししかいられなかったケドさ。クソが、あのばあさん…。まあでもさ、ちやほやされてさ、俺誕生日好きだなー。リオンはどう思う?」
「そりゃまあみんなに祝ってもらえるのは嬉しいとは思うけれども…。俺は昔から誕生日とはこの世に生まれたことに感謝する日なのだと思っているよ。この広い世界の中で父さんと母さんが出会い、愛を育み、俺たちという存在がこの世に存在し、それで十一年間何事もなく生きて来れたのなんて、奇跡に等しいことなのだと思うからね。この世の全てに、めぐりあわせに感謝する日。…それが誕生日と言っても過言ではないんじゃないかな。」

リオンの言葉にリアンはパチパチと目を瞬かせた。「そんなことないよ!リオンがそう思うなら俺もそう思うことにする!むしろそんな考えをしたリオンがすごいって言うか、本当にすごいよリオン!」本当は言っていることの意味なんて三割も理解していない。が、愛する兄の言うことは全て正しい。そう思ってリアンは今まで生きてきた。きっとこれからもそうだ。ずうっとそうやって、最愛の兄の側で生きていく。狭い世界の中で息をして、優しい世界で生きていく。


「___そう。」


だからリアンは気づかない。そう呟いた時の兄の表情がどんなものだったのかを。


「…そうだ。俺用事あるから先帰っててよ。」

もうすぐ家だというところでリオンは足を止め、そう言った。「俺も行くよ!リオンの用事なら俺も行く!」リアンは当然と言うかのようにリオンの後を着いて行こうとする。が、リオンはリアンの顔の前に静止を促す手を出した。

「大した用じゃないから。先行ってなよ。」

柔らかい拒絶の言葉だった。しかしリアンはそれに気が付かない。だからその言葉の裏に何かあるかもしれないなんて疑いもせず、素直に兄の言うことに頷いて、一人で帰路につく。
家に着いたリアンはリビングにいる母親に聞こえるように大きな声でただいまと言い、すぐに二階の自室を目指して駆けていく。
___玄関に見たこともない男性ものの靴があったのを見落として。


「お帰り、リアンくん。」


自室の扉を開けた瞬間に部屋の中から声が聞こえた。聞き覚えの無い声だった。
おかしい。だってここは自分の部屋。父親はまだ外出しているはずだし、母親はリビングにいる。最愛の兄は先程分かれたばかりで帰ってきていない。誰もいないはずなのに__。少しだけ警戒しながら部屋の電気を点けると、先程の声の主であろう男が部屋にある椅子に座っていた。
銀色の髪を持つ、独特な形のベストを着用しているその男は、リアンを視界に捉えると言葉を紡ぐために再度口を開いた。

「__十一歳の誕生日おめでとう。」

祝いの言葉だ。朝に両親に言われ、先刻には友人たちから言われた、同じ祝いの言葉。しかし目の前にいる彼が放ったそれは友人たちから貰ったそれとは完全に違うものだった。
違うのだ。温度が。言葉に込められている感情が。それまで受け取っていた言葉には確かな温かさと、純粋に祝う気持ちがあった。それが伝わってくるものだった。
だがこの男が発した言葉にそれらはないように思えた。温かいとか冷たいとか、そういうのを感じる前に、そのおめでとうという言葉も、無感情で、なんだか義務的に発したように感じて。
__なんだよ、こいつ。
リアンが不信感と不快という感情を隠しもせずじろりと睨むが、男はまるで我関せずといった様子でリアンをその無感情の黄色い瞳で見つめ返すだけだった。
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