音沙汰のない昨日

数年前、カントー地方のオーキド研究所から三人の子供が旅立って行った。
図鑑を持って、ジム巡りをして、それで悪い事をしようと企んでいる奴らを懲らしめて。総括するとそんな旅路だった。
リーグで会おうぜと最初に言ったのはシノノメだった。場所はニビジムだったか。あの頃のあいつは当時のチャンピオンレッドのような、前向きで、快活で、笑顔を絶やさない子供だった。
その話に最初に乗ったのがジークだった。はるばるとジョウト地方から訪れ、訳ありと噂のあったあいつは、ただひたすらに強さだけを求めている__ように見えて、この旅を一番楽しんでいるやつだった。俺にはそれが何かから逃避しているように見えて仕方がなかったが。
ニビジム制覇から約束されたそれは、ハナダ、タマムシとジム巡りの旅が進んでいくにつれ、現実性を帯びていく。俺のフシギダネがフシギソウに進化した、俺はタマムシジム一発クリアだった。そんな他愛のない自慢話に花を咲かせ、笑顔でまた次の再会と将来を約束して互いの旅路に戻って行く。



_____そんな詰まらない過去の夢を見た。



現実はこうだ。ジークはリーグ開催直前に何かしらの理由でジョウト地方に戻って行った。理由なぞ俺が知るわけがない。知ったところでもう意味がない。すでに過去となり過ぎ去った話になるのだから。
それにあいつはつい先日のチャンピオン交代までカントー地方に訪れていなかったのだし、図鑑すらとうの昔に返却したのだから、俺たちの繋がりなんてものは無くなっているも同然だ。
シノノメはリーグに挑戦し、苦戦することなくトーナメント戦を勝ち抜き、四天王戦もそつなくこなし、自分の父親ーチャンピオンレッドーを倒した。それからだろうか。それともそれより前だったろうか。あいつの顔から表情が消え、口数の少ない現在の『チャンピオンシノノメ』になったのは。まあ俺にとってはどうでもいいことだが。

話は戻るが、まあ、子供の約束などそんなものだろう。約束なんて破るためにあるだなんて言う人間も世の中にはいるのだから。そうだな、シノノメ一人だけでもリーグに挑戦しただけでもいい方なんじゃないか?
…俺?俺はリーグになんか挑戦していないが。ジム巡りの旅もヤマブキで辞めた人間だよ。
理由。理由か。話すと長くなるが、きみにそんな話をしている暇はないし、義理もない。だから端的に言わせてもらおう。
全てが詰まらなく感じた。ジム巡りも、ポケモンバトルも、捕獲も、その他何もかも全てが。それだけだよ。全てを得、全てを知るというのは、それだけで人間を死に至らせる。全てが思うままなのだ。そうなってしまったのだ。例えるなら楽園のような生き地獄だと言うところか。
……ああ、何を言っているか分からないって?そうだな、噛み砕いて教えてあげよう。今の俺に残っているのはどうしようもない虚無感だけだということだよ。

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