夢と脈絡が交わるところ

いと深き海 銀色の翼を持ち、海の神と呼ばれるせんすいポケモン、ルギア。
そんなルギアはもううずまき島に生息していない。
数年前ならそんな与太話と鼻で笑われていたものが、今や研究者たちの間では定説として扱われつつある。

はあ、全く以て、定説として扱うには大きな溜息を吐きそうになるほどの馬鹿げた話である。
そんな説が囁かれはじめたきっかけは『うずまき島のあの渦が、この数か月間ずっと消えたままだ』『波が穏やかだ』とアサギの漁師が、気象予報士が、兎に角色々な人々が口を揃えて言ったことだった。
誰もが最初は気のせいだと思ったもの。実際それは気のせいではなく、全て事実だったのだ。
「こんなことはルギアがうずまき島に住み着いてから起きたことがない」「伝承にもあの渦が消えることなんて書いてない」「きっとルギアはこの地から離れたんだ」「生息していないんだ」「どこか遠いところに羽ばたいてしまったんだ」
そんな噂話が、憶測が、人々の間に流れ始めるようになったわけだ。

…ああ、異を唱えさせてもらってもいいだろうか。
まず生息していないとは何だ?落雷で全焼してしまった当時の住処を離れ、人間では到底制御できない力を持つ思慮深いルギアが、人どころか野生ポケモンも寄りつかないような自身にとって『都合の良い』場所を離れるなんて。そんなおかしな話があるものか。どこか別の場所に住処を移すとなればそれはたちまちのうちに周囲の環境に影響を及ぼし、知られることとなるだろう。だって羽ばたけば40日も続く嵐を起こすと言われているポケモンだ。翼を持つルギアは当然移動の際にはその銀色に輝く自慢の翼を使うだろうし、テレポートでも使わない限りうずまき島から少しでも離れようとすれば言い伝え通り嵐が吹き荒れるだろう。海上に現れる竜巻をアサギの灯台の監視員が見逃すわけがないだろうし。まずこの数年間うずまき島周辺、大きく見ても41ばんすいどうの辺りで大きな嵐だの竜巻だのが起きただの海が特別荒れているだの波の様子がおかしいだのの事例はないのだ。私はルギアのためによくアサギの灯台に通い、監視員の方から情報を教えてもらっているから分かるんだ。
つまり私の考えでは、ルギアが自発的に住処であるうずまき島を離れるなんてことはありえないわけだ。


「…ルギア程の強大な力を持つ、『伝説』と崇められているポケモンを捕まえられる実力者がいるものかねえ。」


考えていることがぽろりと口から零れ出る。
いやまあ、過去には実際にいたらしいが。
チョウジジムの先代ジムリーダーであり仮面の男の正体であったヤナギという男は数十年前にジョウト地方を揺るがした事件であのホウオウとルギアを使役して何かの会場を襲撃したらしいが、あれはイレギュラー扱いだ。何やら動けなくなっていたところを横やりを入れて奪ったように捕獲したという話らしいし。
兎に角。今現在悪の組織と称されるようなものはいないわけだし、ルギアを捕まえられそうな実力を持っている二人は揃いも揃ってルギアに関心はない。

「実力者…『違法的な行為や武器の使用を含めずに個々人の実力で捕まえる』という縛りをかけるなら、シノノメとジークくらいしかいないだろうな。だがまあ、あいつらは…。」
「興味ないだろう?特に前チャンピオンは。」
「ああ。前のシノノメなら兎も角、今のシノノメが精力的に行動するわけがないからな。ジークもそうだろう。今は特に、ジョウトに行く気力なんぞないだろうからな。それも目立つ行動を取るなんて馬鹿な真似はしないはずだ。」

人並外れた知識と実力とその他諸々を持っている私の協力者候補 プラシオはずっと触り続けていた端末から顔を上げ、淡々と私が放った独り言に対しての言葉を紡いだ。

「実力で捻じ伏せたんじゃない。力だとかよりももっと重要な、気を通わせられる者が現れた。それこそ伝承であるように『清らかな心を持つ者』が訪れたんじゃないか?」
「…まさかぁ、そんなわけ」
「ないとも言えないさ。ルギアの判断基準なんて俺たちには分かりはしないのだから。…で、」


本当にルギアが誰かの手持ちになっていたら、きみはどうするんだ。


ふいに、彼がそんな変なことを問うてきたものだから。
その緑色の目が真っすぐに私を見つめていたから。
痛い程に、貫いてきて。痛くて。その目が見れなくて。

「___知らない。そんな出来事、考えられない。想像もできない。だからその問いには答えられない。」

その目から逃げるように視線を逸らして、先程までとは比べてはいけない程に弱々しい声と言葉が私の口から出てきたのだ。
本当に誰かがルギアを捕まえて手持ちに据えていたとしたら__ああ、考えたくない。横からかすめ取られた気持ちだ。全く、気分が悪いったら仕方がないよ。
正面に座って端末をいじっている男は、そんな私の心中を察しているのかいないのか分からないような顔をして、コップを私に渡してきた。ああおかわりかい。本当にきみは私の作ったカフェオレが好きだねえ。

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