なだれゆくヌースフィア

ポケモンコンテスト、マスターランク。
今シーズン、美しさの最高峰を決める戦いの場に、僕はいる。
周りは相当な実力者だらけ。そりゃそうだ、この場に半端な気持ちで立っている者なんて一人もいない。立っていたとしたらそれはとっても幸運で、一等不運な者だろう。熱気と狂気とも感じ取れるような思いの強さで圧倒されるに違いない。
ここに立っている誰もが熱くなっている。いや、なりすぎている。視界も狭くなって、思考の幅も狭まってきているに違いない。
だから。


「今だよマンタイン、ハイドロポンプで内に秘めたるきみの激情を表現するんだ!」


僕に与えられた最後のアピールターン。出場者の熱気に、気迫に、観客も審査員も飲み込まれている中へ投げ込んだ目が覚めるような一撃。真っすぐに、勢いよくマンタイン自身の頭上に放たれる激流。宙に舞った水は重力に身を任せ、水滴となりぽたりと頬に流れ落ちる。
会場は一瞬、静寂に包まれた。誰もが宙を見上げ、水の流れを最後まで見届け、終いに僕とマンタインを呆気にとられたような表情で見つめる。
少しは冷静になったかな?なんて思いながら顔を観客の方へと向けると一人の少女と目が合う。その少女は目を大きく見開いて、最初のアピールターンに放ったアクアリングを羽衣のように纏い続けているマンタインを見て、感極まったように口を動かした。

「…きれい。」

少女がぽつりと零したその一言がきっかけになったのかは知らないが、その声を皮切りに会場にまた声が戻って来る。ただし、今度は僕とマンタインを褒め称える歓声となって帰って来て、だけれども。
観客の反応や審査員の食いつきようから見ても間違えようがない、僕の勝ちだ。
僕の確信は現実に変わり、アピールタイム後の結果発表、今シーズンの頂点に立つ人間として僕の名前が呼ばれた。


「お兄ちゃん!」


控室に戻った僕の耳に子供らしさあふれる高さの声が入った。嬉しさという感情を音に乗せて僕の下へと駆け寄ってきた親戚に、目線を合わせるためにしゃがみ込む。

「すごいよお兄ちゃん!キラキラして、くるくるーって!きれいだった!」
「見に来てくれたんだね。嬉しいよ!」

我が愛する親戚は無邪気に笑い、ころころと表情を変えて僕に先程のステージがどれだけ素晴らしいものだったのかを説いてくる。確かに今日のマンタインのパフォーマンスは過去最高と言っていい程の仕上がりだったと自負している。が、こうも面と向かって褒めちぎられると気恥しいものであり、ちょっとやめてほしいな、なんて感情が生まれてしまう。

「…ねえ、今日は楽しかった?」

少し話題を逸らそうと思って『僕の』ではなく、今日の全体的な感想について尋ねてみる。そうしたら、うん!なんて元気な返事をしてくれたものだから、なんだか僕はとっても嬉しくなってしまった!

「コンテスト、好き?ポケモンを魅せることに興味ある?」
「お兄ちゃんのコンテスト好きだよ!お父さんのも、お母さんのも!」

ああ本当にかわいいやつだ。こんな家系に生まれてコンテストに反感を抱くのも難しいとは思うし、むしろ身体の芯からコンテストに浸かってしまう可能性の方が高いとは分かり切っていたけれども、やっぱりこうして本人の口から聞けるのは、嬉しい。

「じゃあさ、こうしようか。将来、僕と一緒にステージに立とう。共演しよう。そしてお互いを高め合おう。約束だよ。」

だから感極まって、ずっと前から、この子が僕たちのコンテストを見に来てくれるようになってから考えていたことを提案してしまった。この子は素直なもので、その言葉にきらきらと目を輝かせ、すぐに肯定の言葉を返してくれた。かわいいやつめ。
ゆびきりげんまん、なんていつもの可愛らしい約束をしていると、部屋に入ってきた父さんから優勝者インタビューがあるということを知らされた。今この子と離れるのは何故だか惜しいような気持ちになったけれども、これも勝者の役目だと思って、この場を離れて父さんと共にインタビュアーのいる場所へと向かう。


「優勝おめでとうございますセイランさん!」
「さすがミクリ様のご子息!いや、貴方の実力でしたね、失敬。」
「今の気持ちをお聞かせください!」


ああ、なんてったって楽しい我が人生!素晴らしき日々に乾杯!
そして願わくば、この先も幸せでありますよう。

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