ときどきは呼吸のようなことをして

セイランは鈍い男ではない。むしろ色々なことをすぐに察し、感づくことのできる人間であった。人当たりも良く、対人の立ち回りも良い。顔面の良さは勿論のことである。セイランという男は、正義感に溢れた好青年である。だから人々はこのセイランという男を敵と認識することはない。この男が何か犯罪を犯したりだとか、誰かの敵になることなんて生涯ありえないだろうが。

「リナ、最近調子でも悪い?」

だから目の前にいる歳の離れた友人___リナが、大なり小なり何かしら悩み事があるのだろうなと気づいた時、彼はすぐにその言葉を口にしていた。話がしたいとヒワマキにあるカフェにわざわざ己を呼び出したのはそちらなのに、何故先程から何も__本来話したいであろうことに触れないのだろうかと思っての言葉であった。

「悪くは、ない、けど。」

びくりと跳ねる肩。ぎこちなく言葉を紡ぎ、明後日の方向を見るように彼女の視線が移動した。
いや、これで悪くないというのは無理があるぞとセイランは思ったが、それを指摘すると彼女は幼子のように拗ねるか、わあわあと何だかんだ長々と言い訳を重ねるのを知っているので、何も言わないことにしてそっかあと適当に相槌を打った。
セイランはそれで一度会話を止めたので、二人の間に静寂が訪れた。カラン、とグラスに入っている氷が溶けたことによって生じた音がやけに大きく聞こえた。

「あのさ、」

そんな空間に最初に耐え切れなくなったのはリナだった。セイランがなあにとゆったりとした雰囲気を纏いながら返事をすると、リナはえっとだの、あの―…だのとたくさんの前置きを入れながらも。『本題』であろうものを話そうと口を動かし始めた。

「最近友達が!友達がね?私じゃなくて友達がね?あまり関わったことのないようなただの隣のクラスの同級生に、一目惚れとかワケ分かんないこと言われて、理由をつけては色々なところに連れて行かれるとか、何かにつけて行動を共にするとか、そういうことをやるヤツがいるって言って困ってるみたいなんだけど、セイランはこういうときどうすればいいとかそういうアドバイスある⁉」
「わあだいぶ具体的だね。聞いた話じゃなくて体験した話みたいに。」
「友達!聞いた話!セイランは私より人生経験豊富で酸いも甘いも知ってるでしょ?何か教えてよ〜!」
「数歳しか変わらないでしょう、僕たちは。それにしてもそんなフィクションみたいなことになってるのは一体どこの誰なんだろうなぁ。」
「本当!誰の話だろうね!!」

だいぶやけっぱちに、矢継ぎ早に言葉を重ねる彼女が少し面白く感じたセイランは、多少揶揄うように言葉を返した。
いやはや、世の中には未だにこうも情熱的な男が存在しているのか。セイランは名も知らないその男性に感心と賛辞の拍手を心の中で送りながら、さてどうしたらリナが納得するような適切な答えを与えてやれるだろうかと頭を回転させるためにコーヒーに口を付けた。




____そんな会話から数日後。セイランは同じカフェにまたもや呼び出された。
ただし、呼び出した人物はリナではなく、別の人間なのだが。


「最近隣のクラスの女の子を何かと理由をつけて色々なことに誘って若干告白紛いなこともしたんだが、一般的な女性はそれで俺のことを意識してくれると思うかい?」


いや、リナの相手お前かよ。
寸でのところで発してしまいそうだった言葉をなんとか飲み込み、セイランは笑顔で「意識しなかったらそれはバグだよ。」と言葉を紡いだのである。
いや、かなり情熱的すぎるな。この男は恋をするとこうなるのか。元々目標に対して大きな熱意を持って一直線に進むやつとは知っていたけれど。なんて思いながら、セイランは友人の一人であるショウキの話を詳しく聞くために追加の紅茶を注文した。

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