傷跡礼賛
「邪魔をするぞ。」
バンと大きな音を立てて、無駄に煌びやかな装飾で形作られている扉が開いた。
セキエイリーグ、チャンピオンの間。関係者以外なら、本来はリーグ予選とその先にいる四天王を突破した人間にしか辿りつけないような神聖な場所。そんなところに、何の前触れもなく人間がやってきた。
珍しい客、どころの話ではない。何故ここに?と問いただしたくなるような__いや、実際俺はそれに似た言葉を放ったのだが。百人中百人が戸惑いを隠せないだろう場面になったこの静寂の間に俺の放った声が響く。
「何をしに来た、プラシオ。」
クセのある紺色の髪。何故だか輝いて見えるような星型のイヤリングを耳に付け、この場には似合わないであろう白衣を身に纏う人間。
オーキド・プラシオ。ポケモン学の権威であるオーキド家に生まれた、バトルも捕獲も何でもできる天才児。ポケモン図鑑を与えられて共に旅をしたかつての仲間だった者。
そいつが今、数年越しに、この俺の前に姿を現した。
意図が分からない。俺が一方的にこいつらとの関係を切って早数年。” 今更 ”何だというのか。ああ、チャンピオン交代で久しい顔を見たから会いたくなったか?んなわけあるか。こいつがそんな性格をしているわけがないということなど十分な程に知っている。
じゃあ何だ?残念だが俺にはこいつが考えていることなぞ分からない。今までそうだったのだから、きっと今もそうだ。いや、そうなのだ。こいつは俺たちには…いや、大人にも理解が及ばないようなことを考え、実行し、結果を残す子供だった。そんなやつが成長したのだから、…まあ、あの頃から変わらずにいたらの話だが、その立派な頭脳は更に小気味よく回転して、我々一般人には考え付かないような思考をし導けないような正答を出しているに違いない。きっと、今も。
じっとその場に立ち続けて微動だにしないプラシオを見続けていると、奴はようやく視線を俺に合わせ、口を開いた。
「……__を消しに。」
「………っ!」
やつはやけに落ち着いた声で、やけに穏やかな表情でそう言うものだから、反応が一瞬遅れてしまった。
こいつ、今、なんて言った?
すぐに聞き返そうとしたが、やつはそれを察したのかすぐに「話をしよう」と続けたので、俺はその問いを投げかける機会を失った。
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「__それで、」
長い長い沈黙の時間を経て、カチャリと音を立ててプラシオはカップをソーサ―の上に置く。協会の人間が気を利かせて出してくれた紅茶はすっかり冷めてしまった。
「それで、お前は何故あの時リーグ挑戦自体を辞め、そのまま1年半近くも行方をくらましていたんだ。」
緑色の目と視線がかち合う。逃がさんとばかりに、その瞳は真っすぐに俺を捉える。
プラシオが言う『あの時』。それは俺たちが図鑑を持ち共に駆けたあの頃の__俺が壊した、俗に言う『青春』に値するであろう日々のことだ。
俺が壊した騒がしくも輝かしいあの日々。何をするために辞めたのかと問われたなら、こう言うしかないだろうよ。
「……義兄を殴りに。」
俺としてはこの一言だけでこの話は終わらせたかった。その意思を示すかのように口を真一文字に結んだが、目の前の人間はそれだけでは許してくれないようで、「どうした?続けてもらって構わないが。」と言ったものだから、俺は腹を括って全てを話してやることにした。
ああ話したくなかった。けれども、プラシオは聞かせない限りここから動かないし、帰してくれない。絶対に口を割らせに来る。俺という人間は決まりきった結末に抗うのが得意ではない。溜息を吐かせてもらってから、俺は事の顛末を少しずつ吐き出していった。