余熱でとけてなくなりますように

本当に、本当に肩透かしを食らった気分だった。

「ひぃっ、すみません、もうしません、もうしないから、見逃してぇっ!」

郊外にある施設に俺たち三人は突入した。そこまではよかった。だが室内には見張りの人間はおらず、侵入途中に組織の人間に見つかってポケモンバトルを仕掛けられても、一撃で勝負がつくものばかり。少し脅してやれば、ジムリーダーを監禁している場所までぺらぺらと喋り出す始末。矜持も何もないのかと声に呆れを滲ませたジークの感想は間違っちゃあいない。ジムリーダーは意識を失っていたので、背に乗せて地上へと運んでやるようにプラシオがピジョットに命令をした。ジムリーダー奪還は予想の五倍程早く方が付いた。
俺たち三人の目の前に尻もちをついて怯えた表情を見せながら慈悲を乞うているのは、新生物を造り出そうとしているという話の怪しい組織のトップ?主要な人間であるらしい。そんな人間が、もうしませんと、許してくださいと、ガキ相手に土下座をしている。

「本当にしないっつーなら何か証拠でも見せてもらわないとなあ。ジーク、アレなんだっけ。ヤンキードラマであったやつ。契約みたいなやつ。」
「血判か?」
「そうソレ。してもらおうじゃねぇの。」

後で思い返してみれば、だいぶ物騒なことを提案したものだと思う。だがしかし、この場の非日常的雰囲気に呑まれているのか、誰も反対の声を挙げなかった。ジークなんかはデスクの上からカッターを探し出して、これでいけるよな、なんて言う始末だ。
この異様な空間の中、冷静だったのはプラシオだけだった。部屋中ぐるりと見回したプラシオは、十歳にしては淡々とし過ぎている口調と声色でオッサンに問いかけ始めた。

「…今もカプセルや試験管の中にある生物未満、細胞のような何かを、あなた方は何と認識していましたか。あれら一つ一つの個体の命を認め、育てようとしていましたか。今この施設内に存在しているあなた方が造り出した何かは、これからも生き続けることができると思いますか。」
「アレらはただの実験体だ。あいつらに命なんてないようなものだ。培養液がなければこいつらは生きることはできない。」
「そうですか。それが聞けてよかったです。ところで話は変わりますが、生物愛護法の基準はご存じでしょうか。まあ、アレらを生物と認識していないあなた方にはもう関係のないことですが。」
「ッ!い、嫌だ、アレだけは、私たちの技術の結晶だけはぁ!」

プラシオの言葉を聞き、徐々に表情を引きつらせて喚き始めたオッサンを黙らせるかのように、オッサンの顔の真横にすごい勢いで水を纏った何かが突撃していった。パラパラと衝突先である壁の一部が崩れていく。壁にそんな衝撃を与えたマリルは、オッサンの顔を見るとにっこりと無邪気な笑みを浮かべた。
マリルを持つ人間はこの場に一人しかいない。ジークだ。俺の仲間はみんな野蛮だった。瞬時にこの動きができる奴を一般人とは言わないだろう。

「おっと手が滑った。今、技術が、何だって?」
「往生際が悪いなオッサン。ちからもちマリルのアクアジェットって人間がくらったらどんだけ痛いか知りたいん?」

マリルのアクアジェットは人間が受けたらどんなことになってしまうのだろうか。答えはすぐそこにある。横へ視線をずらせば無残な姿の壁がそこにあるのだ。コンクリートと補強用の鉄筋がこんにちはと顔を見せる状態にさせてしまったアクアジェットを、人間が?そんなのこの壁だったものが証明している。死だ。
今オッサンに選べる道は二つ。今までの努力を捨てるか、死か。この時のバカな俺でも分かる。普通の感性を持つ人間が後者を選択するわけがない。プラシオは先程の質問でオッサンの逃げ道を完全に塞いだのだと。
オッサンはジークから差し出されたカッターで自らの指をつうっとなぞり、血を滲ませる。そしてプラシオが書いた誓約書に自身の名前記入し、血が滴っている指をゆっくりと押し付けた。震えた手で押されている紙を俺たち三人は凝視する。ゆっくりと紙から離れていく指。そして誓約書にじわりじわりと血が染み渡っていく様を見届けたプラシオは、誓約書を回収してオッサンを見つめた。

「『私は今後人生を終えるまで、以下の事項を厳守することを誓約いたします。一、ポケモンと人間以外の生物を造らないこと。二、今まで培ってきた技術を人のため世のためへの貢献に使用すること。三、今からこの施設内の何を壊されても文句1つ言わないこと。』……誓いましたね?書きましたね?理解、しましたよね。」

もう二度とこんなことしないでくださいね。
そのプラシオの言葉をトリガーとし、オレとジークはボールからポケモンを出して、こいつらが『技術の結晶』と呼んでいた物を壊すように命令を出した。止めてくれと悲痛に歪んだ声が聞こえてきたが、そんなもの知ーらない。だってプラシオが作った、壊しても文句言わないって内容の誓約書に印を押したのはお前自身だ。今更撤回なんて聞かねえよ。
部屋に響くのはガラスの割れる音。何かが倒れる音。それらはつまり、こいつらの野望とやらが破壊された音であった。粗方壊し、後は大人に任せればよいかと判断した俺たちは、放心状態のオッサンを拘束してから警察へ通報を入れた。
ジムリーダー奪還作戦兼組織壊滅作戦の幕引きは呆気ないものだった。が、ここに終結したのである。

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