息するたび永遠から遠ざかる
子供だけで何故こんなに危ないことを?
警察官にそう詰められたのは忘れられない苦い思い出だ。
施設から出てきた俺たちを出迎えたのは警察官だった。それも一人や二人なんかじゃない。正確なところは分からないけれども、ざっと見て十五人くらいはいたんじゃないだろうか。あの時の俺はガキでバカだったから、何でこんな大事になっているんだ⁉なんて思っていたけれども、成長してジムリーダーの任を任されている今なら…というか普通に考えりゃ分かる。そりゃ通報したらそうなる。本当にあの時はプラシオでさえも視野の狭い子供だったんだなと、思い返す度にそう感じる。
長時間の警察からの取り調べと、呼び出された親からの説教で半日くらい潰れた。事件の終わりが肩透かしで呆気ないものならば、後日談は説教イベント発生という恥ずかしいものであった。オレは正座させられて、父さんが途中で止めに入るくらい母さんから説教受けたし、プラシオはグリーンさんから頭に拳骨喰らってたのを見かけた気がする。ジークがどんなかんじで怒られたかってのは見てないから知らないけれど。
「俺はタマムシジムリーダーが復帰次第ジムに挑戦するが、二人はどうするんだ?」
「いや、するけど、挑戦。」
帰り際にプラシオが頭に氷嚢を当てながらそう尋ねてきた。至極当たり前なことだったので、ジークへ顔を向けて、なあ?と同意を求めれば、ジークはああと肯定の相槌を返してきた。
そんな俺たちを見てプラシオは何かを考えているような顔をし、口を開いた。
「…一つ聞くけれど、二人はクチバまでジムを突破しているのか?そりゃあジム巡りにこのジムを突破しないとあそこのジムは挑戦できませんなんてことはないけれども、もしクチバを突破してないなら、タマムシを突破して次のジムに進もうにも、何かのタイミングでわざわざクチバに戻らないといけないことになる。」
もしクチバを突破しないでその選択を取るなら非効率的だと思うんだがとプラシオは続ける。
思い返してみれば、オレとジークが会ったのはハナダジムクリア後に偶然ポケモンセンターで再会したから。少し近況報告をしていたらプラシオがやって来てあの話をしてきて、それで今ここに…。
「…シノノメ、俺たちって、」
「…オレも同じこと思ってるかも。」
「「クチバ飛ばしてるよな?」」
勝手に突破しているものだと思っていたクチバジム。二人してバッジケースの中を確認したが、そこにクチバジムを突破した証であるオレンジバッジの姿はない。二人して勘違いをしていたのだ、恥ずかしながら。
今がもう夕暮れ時なんて気にしない。明日でいいじゃないなんていう母さんたちの声なんて聞こえない。オレたち二人はプラシオのいってらっしゃいという言葉を聞いてからクチバ目指してダッシュで駆けて行った。
この時は何もかもがむしゃらで、楽しくて、怒られてもいいと、自分が正しいと思っていて。本当に楽しい時期だった。
俺たちの三人の関係が良かったのはこの時までだ。
この短くも輝かしかった日々を思い返すだけで泣きたくなって仕様がねェよ。
なあジーク、プラシオ。裏切りやがって。俺だけ置いて逝きやがって。
俺たち三人はあの日まで生きていた。が、もう死んだ。最初に死んだのはプラシオだ。セキチクシティでプラシオと再会した時、あいつは何でもなさそうな顔で、天気の話でもするようなテンションで「ジム巡りを辞める」と、「図鑑も返却した」、「図鑑所有者じゃなくなった」と次々に言い放って、最後に「頑張ってくれ」なんてとても他人事のように冷たく言い放った。ふいうちで背後からナイフを刺されたような気分だった。待てよと、説明しろと声をかけても、プラシオは「説明しても意味がない」と言って去って行っただけだった。
この時はまだジークがいたし、プラシオは年下だしきっとセキチクジムで詰んでしまって、とても諦めが早い性格なんだろうと勝手にそう思い込んで自分を無理矢理納得させた。
だってそうじゃないと、潰れてしまいそうだったから。俺たちがリーグで会おうと交わしたあの約束は何だったんだよと、叫びたくなってしまうから。
次に死んだのはジークだった。あいつはあろうことか、リーグ開催直前に「リーグには出れない」と言ってきたのだ。何故と問うたが、家の事情だと、それだけ答えて去って行った。
それでもどこかそれが嘘なんじゃないかと、すごくリアルな悪夢でも見たんじゃないかと思っていたけれども、リーグトーナメントの通知を見てその希望がガラガラに崩れた。トーナメント表のどこにも俺の知っている名前はない。俺が仲間だと思っていた二人の名前は、どこにもない。
そこで最後に俺が死んだ。もうどうでもよくなって。リーグ優勝ももうやる気なんてなかったけれども、どこかで二人が見ていたりするかもなんて思ってしまえば負けたくなくて、結局全勝して。辞退してもいいのに、あいつらへの当てつけのように、最低な気持ちでチャンピオンの座を継いだのだ。俺という男は。
俺はずっとあの日々を脳内でなぞっている。もう使わないのに未練のように図鑑も手元に残して。囚われすぎだって笑われるだろう。執着も大概にしろと言われるだろう。でもこの感情さえ捨ててしまったら、一体今のこの無気力な俺には何が残るのだろうか。暗闇の中、独りでただ沈んでいる俺に。