きみの顔ノイズとモザイクにまみれて上手に「思い出す」ができない

「へぇ、そうですか!カントー地方からこちらへ?」
「うん。お母さんの家がキキョウで、今日そこに行ってきたんだ。まあここは近場と言えば近場だし、今まで入ったこともなかったから入ってみようかなって思い経って。」

ジョウト地方、アルフの遺跡。そこは我が母クリスタルの実家であるキキョウシティのまあまあ近場にある、1500年の歴史を持つと言われている遺跡だ。
先の言葉通り、俺は生まれてこのかたアルフの遺跡に入ったことはない。というか、ジョウト地方もキキョウシティくらいしかまともに足を踏み入れたことがない。だから正直、自分にとって今日のこの行動は大冒険に近いものであった。いくら図鑑所有者になりカントー地方のジム巡りをして旅をしているからと言っても、足を運んだことのある場所を進むのと、初めての場所を歩くのは別物だ。
少し緊張しながら遺跡の中に入ってみると、熱心に壁に彫られている何かを見つめている先客がいた。外見年齢的には俺と同じくらいか、それより下か。遺跡にいるなんて物好きだな、なんて自分のことを棚に上げながら俺も壁に彫られているものを見始めた。それから少し経っただろうか、その先客がここに人が来るなんて珍しい!と声を弾ませながら俺に話しかけてきたのだ。

「うんうん、その歳で遺跡に興味を持つとはすばらしいです!アンノーン文字も最早は解読されたも同然ではありますが、やはり新しい視点からものを見るのは大事!ですからね。これを機にアナタも歴史・文明に触れ始めるのはいかがでしょうか⁉」
「まあ、興味が出てきたらそれもいいかもね。俺もいつかは何か研究しなきゃなのかなとは思ってるし。」
「おや、研究者の家系ですか?ではもしよければこちらの方向へ舵を切ってみて。ええ、是非!」

名前も分からないし、立ち振る舞いから見て恐らく男だと思われるので彼と呼称させてもらうが、彼はとても人懐っこくおしゃべりで、こちらが一を言うと更に十返してくる…というか語ってくるような人だった。俺自身そこまでおしゃべりな方ではないし、俺が聞かずとも彼の方から勝手にここについての解説をしてくれる点に関しては本当にありがたいなと思っている。
これはなんて読むの?ああそれは〜…これは何?それはこちらを見ていただければ!みたいなやりとりを何回か重ねていると、聞いたこともない…何とも表現し難い奇妙な音が辺りに響いた。何の音だろう。楽器?でも何でこんなとろこで楽器の音が。まさかコミックみたく遺跡のトラップが?なんて考えていたら、彼が失礼と言いながらスマホロトムをいじり、通話を始めた。どうやら先程のは着信音だったみたいだ。

「ああ、はい。ではそこで合流…分かっていますよ。ええ、それでは。」

スマホロトムをポケットに閉まった彼は申し訳なさそうな顔をして、もうここを出なければいけないと言ってきた。

「もう少しアナタとお話したかったのですが、…父親に呼ばれましてね。まったく、あの人も急に呼ばなくても…。」
「帰るの?じゃあ連絡先交換しようよ。また会おう。俺基本カントーにいるけど、ジョウトくらいだったら足運べるし。俺はきみの話をまだ聞きたいんだが。」

そう伝えると、彼は一瞬呆気にとられたような顔をし、次に斜め上に視線を動かしながら、「あー」だの「えーと」だの煮え切らない言葉以下の音を発しているばかりだった。
別に無理強いしたいわけじゃない。無理なら無理でいいよと伝えると、彼はありがとうとすみませんを返してきた。

「実は今日ここにいるのは父親の用事に連れられて来たのを抜け出しているだけで、住んでいるのはジョウトではないんです。実家と呼ぶべき場所はここからだいぶ離れていますし、父は少し厳しい人なので、連絡先の交換は…。」

彼がとても申し訳なさそうな顔でそう言うものだから、なんだかこちらも申し訳なくなってしまい、二人して互いに謝罪の言葉を送る。
本当に、彼と話していたいのは嘘偽りなく本当のことだからもう少しだけ引き留めていたかったけれども、彼の持つ端末への通知の頻度が多くなってきたものだから、俺は潔くさようならをすることに決めた。

「さようなら。いつかまた会えた時はまたこうして話してほしい。」
「ええ勿論。ジブンははアナタを『応援』していますよ。では。」

最後に彼はそんなことを言って去っていった。
ああ、名前くらい聞いておけばよかったな。失敗したかも。なんてぼんやりと思いながら、俺は遺跡の奥へと足を進めて行った。
それが何に繋がるかも知らずに。


タイトル 六踏様(X @roku2mi)

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