絶望向きのイデオサヴァン
「ふざけるな!」
ドンっとシノノメの背中が壁に叩きつけられた音が廊下に響き渡る。痛かっただろうか、だなんて、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも、この男には聞かなければいけないことがある。
「何故わざと負けた…!」
怒りで腕が震える。息も荒くなる。目の前の男が、数年前まで共に同じ場所を目指して走っていた旧友が、憎くて仕方がない。リーグ優勝。新チャンピオン誕生。輝かしいことだというのに、こんな気持ちになるだなんて誰が予想できただろうか。
「情けか!チャンピオンになりたいと言った俺への、結果何も成し遂げられなかった俺への情けで負けを選んだのか!情けをかけたいほどにあそこに立った俺は落ちぶれたように見えたか!惨めったらしいように見えたのか!答えろシノノメェ!!」
相手の胸ぐらを掴み、自身の方に引き上げる。苦しいだろうな。いや、そんなもの知ったこっちゃない。俺だって苦しいのだ。
「……違う。」
しばらくだんまりを決め込んでいたシノノメはようやく口を開いた。だが違うとはどういうことだ。言え、というようにまたシノノメの胸ぐらをこちらへと引くとシノノメは顔を歪ませた。言え!絶対に口を割らせてやる。いくら無口だと言っても喋ることくらいはできるだろうが。言うまで俺は解放などせんぞ。
「お、れは、チャンピオンを辞めたかった。お前が、ちょうどいいところに来た。辞める理由なんて、それだけで十分だろ。」
「っふざけるな!」
シノノメの胸元を解放して俺はしゃがみ込んだ。もう何も見たくない。ここから進みたくない。
「認めるか、誰がそんなもの認めるものか…!こんな玉座に意味などない!お前らを超えるために俺は今まで……」
許さない。本気でバトルがしたい。本気のうえでの勝敗が知りたい。そんな俺のちっぽけな願いすら叶わないというのか、現実というのは。
嫌いだ。こんな形で譲渡された玉座も、こんな方法で譲渡したお前も、俺が生きてきた環境も、あの黄色も。俺はいつも情けをかけられるんだ。
狂ってるよ、こんな現実。
泣くつもりなんてなかったのに、いつの間にか俺はシノノメの前でボロボロと涙をこぼしていた。顔は上げていない。幸い泣き顔は見られていない。が、泣いているという事実は地面に落ちては染み広がる涙の痕で丸分かりだった。
「……お前も悪いよ。」
シノノメの声が耳に入る。何が悪い?俺がフスベに生まれたこと?お前たちと出会ったこと?今日ここに立ってしまったこと?原因になり得ることなぞ数えきれない程ある。本当に、お前が言うように俺が悪いと言うのなら、俺は何をすればよかったんだ。何をしなければよかったんだ。何が正解で何が間違いなんだ。なあ、教えてくれよ。全部。なあ。