因と果をむすぶ禍

ホウエンの夏は暑い。年々と最高気温を更新していくこの熱に人間は耐えきることができるのだろうか。熱中症にならないために必要なものは日中の外出を避けること、水分や塩分を取ること、室内を適切な気温にすること。そう、夏を過ごすうえでの基本的なことなのだ。無理なんかしてはいけない。だと言うのに、言うのに!

「……馬鹿した…もう…。」

私、ツワブキ・リナは絶賛熱中症の症状を自身の身で感じていた。
あーだめだ、暑すぎる。最初は立ち眩みだった。そして次に襲い掛かったのは眩暈。立っているのが辛くなった私は情けなく、へろへろと地面にへたり込む。
あっつい。直に感じるアスファルトの温度が、揺らめいて見える熱気がうざい。…陽炎だったっけ。ああ、なんだかもう考えていることも支離滅裂だ。脳が溶けてるのかも。笑えないけどさ、笑うしかないんだよね。だるすぎて口角なんかもう上がらないけど。
輪郭を伝う汗が気持ち悪い。こんな時に限って人気がないんだから、もう。いや、学校なんてそんなもんか。夏休みに学校にいる方が可笑しいんだ。つまり私が異端。誰にも見つからずに夜が来てしまうのかもしれない。はてさて、日が傾くまでこの身は大丈夫なのだろうか。いや、無理か。終わりだわ。あーあ、お父さんごめん。そんなことを思い、諦めという感情を嚙みしめながら瞼を閉じる。
うん、真っ暗の方が気持ち楽な気がするな。日光って、人間には毒だ。


「馬鹿!何してんだ!」


誰かの大声で沈んでいた意識がまた浮上する。誰。聞いたことない声だった。「熱ッ…!クソっ、目の前で死人なんか出してたまるかよ!」額に一瞬何かが触れたような感覚があった。ああ、ちょっとだけひんやりしてて気持ちよかったのに。残念だ。いなくなった何かに名残惜しんでいるとそれよりも更に冷たい何かが首筋と額に当たった。薄っすらと目を開けてみると目の前の景色が歪んで見えた。熱で目までおかしくなったのかと思ったが、よく見るとその歪んでいる景色は視界に入ったほんの一部で、ペットボトルの容器越しに見えたものだったのだ。

「ほら、飲める?飲ませてほしいなら話は別だけど。」

この世界を探したとて、誰が初対面の他人に飲ませてもらいたいと思うのか。無言でペットボトルに腕を伸ばす。ごくごくと勢いよく水を飲む私を見て彼は「はは、いい飲みっぷり。」だなんて茶化したような言葉を発するのだから、少しだけ恥ずかしくなった。

「…ツワブキさん、だよね?隣のクラスの。」
「………なんで、私の名前、」
「有名じゃん。あのチャンピオンダイゴの娘がこのトレーナーズスクールにいるって。俺はショウキ。隣のツツジ先生のクラス。」

はい、これも食べてと彼から渡されたのは塩分を補給することができるタブレットだった。それをありがたく受け取って口の中に放り込む。じんわりと溶けていくタブレットから酸味とほんの少しの甘みが口の中に広がっていく。おいしい。水が入っている新しいペットボトルも差し出されたのでありがたく受け取り、それを口にする。水分と糖と塩分を摂取して、やっと脳が回ってきたような気がした。
ああ、タオルだったのか。冷たかったあれは。彼の手元にある白を見てようやく察することができた。

「__ありがと、助かった。死ぬかと思った。」
「いいよそんな。だって今周りに俺しかいなかったし。死人出るの嫌だし。見るのもね?それに人を助けるのは当然だろ?…それよりさ、きみの名前は?」

間。
何を言っているんだ、こいつは。

「さっきのは幻聴かなあ?え?知ってるでしょ、きみ。だってさっき私のことツワブキさんって」
「言ったよ?うん言ったのは事実だ。幻聴じゃないから安心して。」
「……私のこと知ってるじゃん、それでいいでしょ。」
「ははっ、知っているかな?本人の口から直接聞くことが何より大事なんだよ?俺はきみの口から聞きたいな。きみの名前が何で、どこのクラスの生徒で、父親が誰かって。…間違ってたら嫌だろ?」

かちりと彼と目線がかち合い、彼の赤い目が私を貫いた。何故かいたたまれなくなった私は小さな声で自分の名前を言うと、彼はその顔ににっこりと擬音でも付くかのような完璧な笑みを形作った。


「へえ、リナちゃん。よろしくね。俺はショウキ。隣のクラスだよ。」
「知ってるよ……。」


これが私とショウキの__
私の運命との、出会いだった。

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