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「まだ泣いてるの?」
傘をさしだす行為が、最近、イヴァンのお気に入りだ。それ以外にもいろいろと謎の行動がある。珈琲を飲もうとしたら、砂糖はいくつだと訊いてきたり、朝食を用意しようとしてきたり。俺が好きなのはブラックだし、もたつく手つきに苛々させられている。
「うるせぇ、あんな映画だと思わなかった」
映画館を出てからしばらく経つのに、まだ鼻をすすっている俺を見て、おなじ傘の下で呆れていた。
「みんな見てるよ、恥ずかしいんだけど」
「減るもんじゃねぇし、見せてやる」
「……泣いてるのに、かっこいいこと言うね」
犬と子どもが出てくる話には弱い。暇つぶしに観るつもりが、とんだ誤算だった。
風はあたたかく、いつかの花冷えの雨とは、違う春を迎えていた。横断歩道に散っているのは、もう緑のきわまった葉で、つやつやと水滴をはじいている。
「あんまりそうしてると、抱きしめたくなっちゃうよ」
「は?」
信号が変わり、周りの人間は歩きだすが、俺は隣のイヴァンを見た。大きな瞳のなかに、景色がまわる、色とりどりの傘が去り、ふたりだけ取り残されていく。
不思議そうに見つめられ、笑みがこぼれた。
「はは……抱きしめろよ、ほら」
両手をひろげたら、きょとんと眼をまるくする。ん、と促してやると、困ったように眉をしかめ、俺の思い通りになった。
傘が地面に落ちて、かろやかな音をたてる。車がクラクションを鳴らして、通りすぎていった。はやされても一向に構わない。唇を歪めて釣り上げる、悪い笑顔になるくらい、雨に濡れて気持ちいい。子どもみたいにはしゃいでしまう。
「……やっぱり、ずるい」
「なにか言ったか?」
「ないしょだよ」
イヴァンの髪先から落ちる雫が、風に舞った。きらきらする雨粒を、春がさらっていく。俺とイヴァンだけは、しばらく乾きそうになかった。
Fin.
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- Hitoshizuku no Uchini -
Thanks everyone,and I love you!!
Theme 「与えているつもりで、与えられている」
本のタイトルは「泣いているきみ」の一節から拝借しました。
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きみの涙のひとしずくのうちに
あらゆる時代のあらゆる人々がいて
ぼくは彼らにむかって言うだろう
泣いているきみが好きだと
※『自選 谷川俊太郎詩集/私』「泣いているきみ 少年9」より抜粋
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*Thanks BGM ≪美しい人≫ / ≪ザザ降り、ザザ鳴り。≫
Re:lei*ray(旧サークル名) 糠夜雨子 2015年5月3日
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※実在の人物や土地とは一切関係がありません。
※作品内に登場するものについて、いかなるものに対しても、否定したり貶める意思はありません。