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◇ ざわめく秋 ◇
2.
風がうなりをあげ、金色の草原までもが、吼えるように揺れていた。草むらに与えられた影は、冷えきった地面に落ちる。
あぁ、もう秋が終わるんだ。
しんとしていく心が、厳しい北風と寄り添う。変わりゆく季節のなかで、足並みを揃えて生きている僕らにとっては、寒さすら、自分の体の一部となった。
「あぁ、おなかいっぱいだ。ギル、何して遊ぼうか?」
「丘まで競争!」
「かけっこ? また僕が負けちゃうよ」
「はは、お前、重くなったからなぁ」
つんつん、お腹を突っついてくる。むぅっと頬を膨らませてみせれば、ギルはすごく喜ぶ。僕の困った顔が大好きなのだ。
僕だって、ギルの困った顔が大好き。いたずらな手をとって、指をぱくんと口に含む。
「やめろ〜、クマの匂いがつくだろ!」
「ふふ、嬉しいでしょ?」
困りながらも、くすぐったそうに笑っていた。もぐもぐと味わう真似をしてみせれば、嬉しそうに逃げ出す。
転がるように走り、風をまとう白さが今日も綺麗だ。僕らは冬支度を済ませて、ギルなんか耳も尻尾もふくふく膨らんでる。とても暖かそう。
「はやく来いよ!」
逃げ出したくせに、ちゃんと僕を待ってる。おかしくって、わざとゆっくり近づいた。
「競争はイヤだよ、違うことしよう」
「じゃあ、昼寝だな」
「えっ、なんでそうなるの」
「だってお前が好きなことって、食うことと、寝ることだろ」
「そんなことないよ、他にもあるよ! えっと……えっと、」
「……おい! いっこも思い浮かばないのかよ」
きらきら笑うギルに追いついて、両手を繋いだ。
「つかまえた」
「……ふっ」
ギルは僕の手をぎゅうっと握り返し、そのまま引っ張る。おとなしく倒れた僕と、つんと鼻先をくっつけた。
僕らは草原に寝転がり、からかうように甘噛みをする。僕が上機嫌だからか、ギルは誇らしげだ。
「ほら、昼寝で間違いなかった」
「やだよ、食べたら運動もしたいよ」
「じゃあ、俺ここで寝てるから、ひとりで走ってきていいぜ」
「やだ〜!」
くすくすと笑いあい、何度も鼻先をくっつけた。これは親愛の証だから、ふたりとも飽きずに繰り返してしまう。
最近はこんなふうに、何をしていても楽しくて、ずっと笑いが絶えない。草の上をころころ転がって、ふざけあってるだけでも時が過ぎる。
空の高みから、歌がきこえてきた。南へ帰る、鳥たちの秋の渡りだ。何日か前にも違う群れを見かけたけれど、今年はもう、彼らで最後かもしれないな、と思う。
その飛翔はあまりにも高くて、姿はけし粒ほどにしか見えない。歌だけが、存在をたしかに響きわたらせている。新たな旅路に、高まる想いをこめた歌。どんな気持ちだろう、はるかな山々を越えて行くのは。
「あの子たちは、海を見たことがあるのかなぁ」
「ん、」
「海の向こうに、帰る場所があるのかもしれないね……ねぇ、ギル」
「ん……」