潜性のビオトープ EP
「来週の夜、どこか空いてるか?」

酔って千鳥足の名前をタクシーで送り届けて寮に戻り、千景は同室の茅ヶ崎至に声をかけた。

そんな問いかけをされるのは初めてのことで、至は面食らってゲームを一時中断する。
千景が劇団に入る前と比べれば当然今の方が千景のことを理解しているが、表情が読めない場面もまだまだ多い。

「……木曜なら、イベントも終わってるので空いてますけど。なんですか急に」

いぶかしげに答える至。
至が遊んでいるスマホゲーム・ブラウォーは今イベントの真っ最中で、イベントのランキング上位に入ると報酬として強いアイテムが貰えるので、睡眠時間を削って熱心に取り組んでーー走っている。

会社ではスマートな好青年という分厚い皮を被っている至がこんなゲーム廃人だと知った時は流石に千景も驚いたが、二面性があるのは千景も同様であるし、寝不足でもきちんと会社には行っているので私生活に口を出す気はない。もっとも、体調を崩すほどゲームにのめり込みそうになったら、同室として面倒なので、止めさせなければとは思っているが。

「空けといてくれ。飲みに行こう」
「は……?怖いんですけど」
「劇団のチケットを用意してもらったお礼。してなかっただろ」
「……と、見せかけて恫喝ですか?」

にっこり笑う千景の真意が見えない。
自分は一体何かやらかしたのだろうか。これから、何を要求されるのだろう。
機嫌は良さそうに見えるが、色々問うてもはぐらかされ、至は詳細を何も教えてもらえなかった。

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