頼んだよ、〇〇さん

白い天井を睨み付けていた。
世間は騒がしい連休になろうというのに、どうして私は白いベッドで仰向けになっているのだろうか。

「ほら、食べて。」
「いらない。食欲ない。」

親友は嫌そうな顔をして、仕方なく自分で剥いた林檎を口にした。
世の中には終活という言葉があるけれど、後先短い人生、何を楽しみにすればいいのかなんて、考えたくもない。
軽い厨二病みたいなものだったと思う。
誰もが私に、この生地獄を味合わせる敵に見えて仕方がなかった。
そんな時だ、あの人に出会ったのは。

「明日も来るから。」
「……。」

毎日同じ様に来ては帰っていく親友の背中を見送った後、隣のカーテンから声が聞こえた。

「友達とは、仲良くしなきゃ駄目だよ。」

明らかに若い女性の声だった。
あんたには関係ないとつっけんどんに言うと、くすくすと笑い声が聞こえて、不愉快だった。

「なっちにもね、親友がいたの。」
「聞いてないし。」
「大好きなのに…。きっと、もう会えないんだ。」
「連絡すればいいと。」
「…出来ないよ。なっち、もう、独りだから。」

涙声が、聞こえた。

「知らんとよ、そんなこと…。」

何で短い人生で、センチメンタルにならないと駄目なのか。
ううん、何でこんなに心が揺れるのに、人生はもう、終わろうとしているのか。
そんな現実に背を向けるように、声がしたカーテンに背を向けて、現実から逃げるように、眠りに落ちた。

「だから、代わりに言ってね。大好きだよって。」

そんな言葉を、最後に。

「頼んだよ、…田中。」