惑星は真っ白な息を吐く



“なあ、今からちょっと会えないか?”

315プロのアイドル達は、大晦日は音楽番組の生放送に元旦はニューイヤーライブと引っ張りだこで、それに連動する形で私や殆どのアイドル達が、テレビ局から近いホテルに宿泊。結果として、私はホテルで今年最後の時間を迎えようとしていた。

明日に備え休もうとしていた矢先、輝さんからメッセージが届いた。
…彼も、明日の朝は早かったはずだ。少しだけ考えると、『朝早いですから、ちょっとだけですよ?』とメッセージを返した。


数分後、控えめにドアをノックする音が響く。扉を開けると、輝さんがそこにいた。

「よ、寝てたか?」
「そろそろ寝ようかなって思ってましたけど、輝さんから連絡頂いて起きてました。」
「……なんか、すまねぇな。」
輝さんが申し訳なさそうに頭をかくので、私は小さく首を振った。
「大丈夫ですよ。気にしないでください。」
「そっか。じゃあ、ちょっとだけ邪魔するぜ。」

そういうなり、輝さんは私の部屋に入るとカーテンを勢いよく開けたものだから、私はびっくりした。

「ちょっ、輝さん?!」
「――あ、忘れてた。明るくて見えないから電気消してくれるか?」

一体何をし出すんだこの人は。びっくりしている私をよそに、輝さんがくるりと振り返りながらそんなことを言いだすものだから、少々脱力した。

「…分かりました。けど、見えないって何がですか?」
「んー、とりあえず電気消してこっち来いよ。」

ぱちりと室内灯を消すと、暗いから足元注意なと手を引かれる。
行き先はカーテンの向こう、寒風の通り抜ける外のバルコニーだった。


ひゅうと吹く風に煽られる髪を抑えながら、私は視線を前へ向ける。

「う、わ。」

目の前に散らばる輝きに、私は言葉が出なかった。
――大晦日だというのもあるのだろう。いつもより控えめなのだろうが、外の冷えた空気で普段よりも光り輝いて見えて、まさに絶景だった。

「……な、凄いだろ。」

少しだけ自慢げな輝さんが横に来る。

「凄い、です。よく知ってましたね。」
「俺もさ、さっき部屋のカーテンをたまたま開けて気づいてさ。せっかくならつむぎと見たいなー…って、思って。な?」

だから連絡したんだ。そう話す彼の表情は、目の前の光景みたいにきらきらしていて、宝物を見つけた少年みたいだった。

「教えてくれてありが、っ、くしゅん。」
「ん、大丈夫か?」

外寒いもんなと呟きながら、輝さんが私の後ろにまわる。遅れて、少し重さのある温かさが広がり、腕が私を包むように前へ回ってきた。

「――よし。これなら寒くないだろ?」

私の肩あたりに彼の顔があるのだろう。ふふっと笑った吐息が、私の耳を軽くくすぐった。

「……輝さんは、寒くないですか?」
「俺?俺はつむぎ抱きしめてるからへーきへーき。」

ちょうど良い暖かさだしな、なんていう声はなんとも楽しげで、きっとにこにこ笑っているに違いない。視線を向けなくてもなんとなくわかった。

「……ほんと、あったけーな。」
「……私も暖かいですよ。」

しみじみとお互い言い合うのがなんだか面白くて、私達は小さく笑いあう。


「あ、見てください輝さん。」

遠くで、花火が上がりはじめた。
大晦日の夜中に上がる花火が何を示しているのかなんて、誰でもすぐわかるものであった。

「明けまして、おめでとうございます。」

言おうとした言葉が、先に輝さんから降りてくる。横を向くと、そばに彼の顔があった。

「今年もよろしく頼むな、つむぎ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」

小さく頭を下げるともう一度ぎゅっと抱きしめられる。はぁ、と吐き出された吐息が私の頬と耳を撫でていった。

「年明けの瞬間を一緒に過ごしてくれて、ありがとうな。寒かったろ。」
「輝さんがいてくれたから、平気ですよ。」
「……そっか、ありがとな。」

そういうと、私は抱きしめられながら遠くに上がる花火を見つめる。
……今年の年明けは、一生忘れることはできないだろう。そんな気がした。


title:誰そ彼