積もる気持ち
今日は、前から楽しみにしていたゲームの発売日。俺はというと、それに合わせてオフを取っており、家電量販店で目当ての作品を買って帰る途中だった。
さあ後は帰路に着くだけ。そう思ってエレベーターのボタンを押した。
「あ、」
「……あ、」
偶然というものはこうも簡単に引き起こされるものなのだろうか。開いたエレベーターのドアの向こう、目の前にプロデューサーがいた。
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「ごめんね、なんか付き合わせちゃって……。」
「いや、大丈夫っす。俺、家電のことなら強いですから。」
「はは、そうだったね。お陰ですぐ決められて良かったよ。」
「っす。」
エレベーターでばったり逢沢さんと出会った後、俺は彼女と一緒に家電のフロアにいた。
どうも部屋の暖房器具の調子が悪いらしく、壊れる前に店へ見にきたとのこと。とはいえ、彼女自身が気になっていた機種をいくつか絞ってきていたから、俺はというと、機種の違いやオススメポイントなんかをアドバイスしただけだったけれど。
「……さむ。」
暖房の効いていた建物から一歩出ると、小さく漏らした吐息が真っ白に変わっていく。
その日は今年1番の冷え込みだとニュースが言った通り、冷えた風が俺のそばを通り抜けていく。
「そうだ、お礼コーヒーでも良い?」
「礼なんて別に良いっすよ俺。」
「良いの良いの。私がしたいんだから。買ってきちゃうね!」
「あー、俺ブラックで……聞こえてないよな……。」
ぱたぱたと目の前のコーヒーチェーンの店に走っていく彼女を見送りながら、俺は近くの広場のベンチに座る。待っている間冷たい風が何度か通り抜けていったが、あまり気にはならなかった。
「おまたせしました、っ、」
少ししたら、向こうから笑顔の彼女が駆けてくる。それが突然、急にぐらりと傾く。
「っ、あ、おい!」
俺は咄嗟に走る。伸ばした手は、彼女へ間に合うだろうか?
「っ、大丈夫、……すか?」
「……せ、せーふ、」
「……俺がいなかったらアウトだろ。」
彼女の両脇を抱えながら、俺は盛大に息を吐く。彼女と、手元のコーヒーはなんとか無事だったようだ。
「あんたさ、何で仕事に関係なくなるとこうもおっちょこちょいになるんだ……?」
「あはは、……返す言葉もないです。」
少し小さくなった気がする彼女を立たせてやると、手元のカップをひとつ受け取る。少し空いた隙間から、ほのかに苦い香りがした。
「ほら、あんたもここ座って。」
そう促すと、俺は手元のコーヒーに口をつける。彼女も隣に座り、両手でカップを持ちながらコーヒーを飲んでいく。
「……去年みたいだね、ここ。」
ほう、と息を吐く彼女に俺は今更ながら辺りを見回す。木々はクリスマスらしく装飾がされて、中央にはツリーがきらきらと輝いていた。
(そういえば、あの日もこんな場所だったか。)
去年、BeitとDRAMATIC STARSの2ユニットで新曲を発表した。タイトルは『冬の日のエトランゼ』で、曲調も相まって冬の季節に色んな場所で聞く機会が多かった。
同時期にその曲のPVも撮影したのだが、その撮影場所が夜のイルミネーションの中だったものだから、きっとここも夜になれば同じように光の世界が広がるのだろうか。なんて思っていた。
「なんか、この時期は雰囲気がどこも変わりますよね。」
「そうだね。クリスマスの雰囲気って凄く好きかも。」
「そうなんすか?」
「うん、イルミネーションとかツリーとか、その時期にしかない特別って感じがして!中央のツリーのてっぺんの星、夜になったら1番輝くんだろうなぁ。」
「……そっ、すね。」
にこにこ笑う彼女をよそに、俺は少しだけ目を伏せた。
誰もが、一番高い場所にある一番輝くところに目を奪われてしまうんだと思うと、なんか悔しかった。
「……私はあの星は恭二くんかなぁなんて思ってるけど。」
「っ、ぶ、」
勝手に感傷に浸っていたところへ突然過ぎて、むせた。
「っだ、大丈夫?!」
「だいじょぶ、っす……大丈夫……。」
なんて言っては見たものの、内心は激しく動揺していた。まさか見透かされいた?なんて考えが頭をよぎる。
“あんたの側で一番輝いてる星は、俺だろ?”
(そんなこと思ってたなんて、言えるわけ、)
喉で留まっていた言葉をコーヒーで押し流すと、俺は一息ついて顔を上げる。
「……あの、何で俺なんすか。」
あの星がと言いながら、俺はツリーのてっぺんを指差す。彼女は、ぱちりと瞬きをすると俺を手招きして少しだけ背伸びをする。
「――。」
そう言った逢沢さんの手を、俺は思わず掴む。その瞬間だけ、時間が止まったような気がした。
「……恭二、くん?」
驚いたような彼女の表情に、俺は口を開く。
「……あのさ、つむぎさん。」
この先は、誰も知らない。
ただ俺たちを見ていたのは、舞い散る粉雪だけだった。
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DRAMATIC STARS・Beit『冬の日のエトランゼ』