※主人公≠P 山村と一緒に事務員として働いている女の子

ここは、事務所の屋上。ぽかぽかとした日差しの中で、俺は1人緊張していた。何故って?それはちょっと色々理由があって……、

「――木村さん?」

声をかけられて、振り返る。
そこには、普段と変わらぬつむぎさんの姿があり、俺の心は自然と鼓動が速くなる気がした。

どうしてこんな事態になっているのかは、数時間前に遡る。





「龍、お前いい加減に告白したらどうなんだ。」

休憩時間、英雄さんに爆弾を落とされた俺は、飲んでいたお茶を思い切り噴きそうになった。

「っ、な、なななな何ですか藪から棒に、げほっ……。」
「大丈夫か、龍?……まあ、英雄の言いたいことも俺は分かるがな。」
「え"っ、」

むせる俺の背中を軽く叩いてくれる誠司さんからも言われ、俺は硬直する。

――ご指摘の通り、俺、木村龍は事務所の事務員である逢沢つむぎさんへ片想いをしている。

アイドルとして恋愛がご法度なのは、この業界での暗黙の了解であろう。それは、プロデューサーにも何度か言われた事ではある。
だから俺は、なるべくなるべくつむぎさんへの“好き”という雰囲気は抑えているつもりなのだが、……その、ふとした時に優しくされたり気にかけられたりすると、やっぱりドキドキして仕方がなかった。
え……そんな?そんなに分かりやすいのだろうか?

「……俺、そんなにダダ漏れてますか。」

「おう。」
「ああ。」

即答されて脱力した。誠司さんにすら言われるという事は、事務所内の多くの人にも察せられているという事だ。胃がキリキリする。

「……正直言うぞ。俺としては、さっさとくっつくか振られるかして欲しい。」
「英雄さん言い方酷くないですか?!」

あんまりだーと嘆く俺へ英雄さんの視線がざくざく刺さる。そんな、そんな簡単に言われても、そう単純に片がつく事ではないのだ。

「……だって、アイドルが恋愛って、どうなんですか。」
「どうって?」
「だって、ほら……まずくないですか。色々。」

うーんと唸る俺を尻目に、英雄さんと誠司さんが顔を見合わせる。

「……まあ確かにな。」
「ほらやっぱり!」
「だけどな、いつまでも心ここにあらずで仕事するのも、俺はどうかと思うぜ?」

英雄さんが少し厳しい視線を向けると言葉に詰まる。そうなのだ、実はここ数日普段ならあまり起こらないような凡ミスを俺は連発していた。
先日はそれが原因で、プロデューサーに頭を下げさせる事態にまで発展しかかり、何か仕事に集中できない要因があるのではと心配をかけたばかりだった。
だからといって、相談できるかといえば俺は躊躇った。でも、早く解決をしなければならない問題であるのだ。

「……どうすれば良いんですかね。」

頭を抱える俺の隣で、誠司さんが俺のスマホを英雄さんに渡した。……渡した?!

「ちょ誠司さ、ん痛たたたた!!!」
「よーしそのまま俺がメッセージ送り終わるまでホールドしとけ。」
「任せろ。力仕事は得意だ。」
「ちょっとふたりとも?!」

慌てる俺を尻目に、英雄さんはつむぎさんを呼び出すメッセージを送ってしまう。俺の手元にスマホが戻ったのと、彼女からの承諾のメッセージがついたのは同時だった。



そして、冒頭に戻る。

「どうしたんですか?お話って。」
「え"っ?!」
「え?ほら、話したいことがあるって連絡くださったじゃないですか。」

言いながらつむぎさんは小さく首を傾げる。その仕草すら可愛いと思う俺はきっと重症なのだろう。

「あ、えーっと、そう!話したい事があって、!」

そう動いた唇が、ふと止まる。

(言って、良いのか?)

……俺のこの気持ちは、俺の片想いな訳で。
もし、もしも、告げたこの気持ちが受け入れられなかったら?

「木村さん?」

そう言いながら首をかしげる彼女を前に、すると自信がなくなりそうになる。

――小さな勇気、前に進め

ふと、街の何処かで聞いた歌の歌詞が耳に響いた。そうだ、……俺は、前に進まないと。

「つむぎさん……失礼します!!」

そういうと、俺は覚悟を決める為に彼女を抱きしめる。つむぎさんは少しビクッと震えたが、俺の腕から出て行くことはなかった。……それが、なんだか少し嬉しくて、俺はそのまま言葉を続けた。

「俺、……つむぎさんの事が好きです。」

息をのむ音が聞こえる。それに合わせる様に、腕の力を込めた。

「……俺、欲張りなんですよ。」
「よく、ばり?」
「……はい。」

「俺は、消防士という夢を叶える事が出来ませんでした。だけど、その夢へ違う形で俺は近づこうとしています。」

俺が今ここにいれるのは、プロデューサーさんが見つけてくれたから。アイドルは決して楽な仕事じゃないけれど、英雄さんや誠司さんと一緒で頑張ってきた。でも、それ以上に

“木村さん、今日もお仕事頑張ってください!”

日々、送り出してくれる彼女の事がどの位支えになってくれていただろうか。

「俺、アイドルになって色んな思い出が沢山増えました。色んな人と出会って、でも、その中で1番特別になっていって、……これから先の新しい思い出のページを、つむぎさんと一緒に描いて行きたいんです。」

そういうと俺は腕を解き、つむぎさんの肩へ手を置いて視線を合わせる。

「……だから、これから先の時間を、俺にくれません"っ、!」

……思い切り舌を噛んでしまい、手で口を押さえ痛みで視線が外れる。
ああ、どうして俺はいつもこうなんだろう。よりによってこの肝心な場面で。自分の不幸さ加減に、じわりと視界が歪む気がした。

「大丈夫ですか?」

温かい手が、俺の手に触れる。それはまるで、思い切り転んでしまった子供へ触れる母親のような暖かさで。
視線をあげると、暖かさそのものの様な笑顔で彼女は微笑んでいた。

「……私なんかで良ければ、喜んで。」

聞き終わった瞬間、俺はもう一度勢い良く彼女を抱き締める。今度は、彼女も少し背へ手を回してくれた。

「俺、絶対に貴女を大事にしますから。」

だから、と言いかけた瞬間俺たちの周りを風が吹き抜ける。思わず顔を上げると何処からか桜の花弁がふわりと舞っていく。

暖かな春を感じ、俺とつむぎさんは一緒に微笑む。

――今度の休みは、お花見なんて良いかもしれない。

(そう思い切り出そうとした瞬間と、英雄さん達が扉から飛び出してくるまでもう少し)

Spring has come around