作戦に至るエトセトラ

※公安特課所属ヒロイン。超常学園時点は春野のクラスメイト。対立スル正義の少し前のお話
ヒロインの能力は触れた相手の能力の増幅させたり制御することができる力。



拝田丞を始めとする生徒会の暴走により学園都市が壊滅してから数年。私、逢沢つむぎはクラスメイトの春野君と同じ公安特課の一員となり、学園生活とはまた違った忙しい日々を送っていた。私の能力【増幅折衷(アッパーコントラブル)】はサポート特化のため戦闘沙汰には殆ど呼ばれることがなく、主に事務仕事や監察の付き添いで出向くことが多かった。…そんな日がなるべく長く続けばいいなと思っていたのだけれど。

「……んで、未だに囚われのカワイソ〜なオレに面会に来るって用ってなんなワケ?公安特課の春野威吹さ〜ん。」

面会室のアクリル板越し、数年ぶりに会った拝田君は能力制御の首輪と拘束服姿でありながらも昔と変わらず不敵に笑っているが、どこか少しやつれた様な印象を覚えた。彼の刑期自体が中区続いているのもあるが、実際の所は監視及び保護…要は出所させてまた事件を起こされては困るという公安特課預かりもとい軟禁の身の上だった。

「さん付けで呼ぶな気色悪い。」

彼と対峙している春野君は長々と溜息を吐いた。それもそうだろう、定期報告では『看守の指示にも逆らわず非常に模範囚然としている』との報告が上がってきていたのだ。それがこうも大人しいとは真逆な挑発的な言動を取ってきたらイラっとしているのだろうというのは分かったけれど、ここでひと悶着を起こして交渉が破断してしまっては公安としても困るのも事実だった。

「ま、まあまあ春野君…拝田君に用事があるのはそうなんだし落ち着いて…。」
「あはは、逢沢せんぱいは相変わらず優しいっすね〜。」
「はあ…逢沢は甘すぎるだろこいつに…。まあいい、とりあえず用件を話すから聞いてくれるか。」
「野郎の話は聞く気ないんでパス。」
「拝田お前な…!?」
「は、拝田君お願いだから春野君の話を聞いてくれるかな!?面会室のアクリル割るわけにいかないから!!」

座った椅子から風を巻き上げながら立ち上がりそうになっている春野君を宥めつつ、ビリビリと震えるアクリル板越しに懇願じみたお願いをすると非常ににこやかな表情でころっと態度を変えてくれた拝田君に私は内心ほっとしつつ、春野君はというと毒気を抜かれたような表情を浮かべながら椅子に座り直し、一度咳ばらいをすると改めて春野君は用件を話し出した。


「実は――」







「例のマシンが、ねえ……」

ぎし、と拝田君が背もたれに寄り掛かったのか座っているパイプ椅子がきしんでいる。春野君の話を聞き終わった彼は特に驚いた表情も言動も取らなかった。


――計画自体が消滅したはずの例のマシン開発が秘密裏に進んでいる、しかも過剰な機能が搭載されて。その情報が公安へともたらされたのは少し前の話。今度こそすべてのマシン開発を止めるべく、公安は強い能力者を学園に送り込む手筈を取り、既に何人もの生徒や教職員を送り込むのと同時に内部の協力者の数も増やしていき有事に備えて準備を進めていた。

その裏で潜入済みの公安側の人間にも伏せて行われる計画が秘密裏に立ち上がっていた。
それは拝田丞を一時的出所させ、学園内に潜入・独自の潜入捜査をさせるというものだった。当然内部からは反発の声もあったけれど(特に鈴重君と春野君)、対策チームのリーダー思聞さんの説得により計画は進行することになり、今日こうして私達は計画の切り札――ジョーカーのカードとなり得る拝田君に面会に来たのであった。

「……驚かないんだな、拝田。」
「あのマシンは学園と軍が手を組んで開発してたもんだしなぁ。オレの事件でジ・エンド!になんかならねえだろうとは思ってたが、な〜るほどねぇ……。んで、公安特課のお二人サンが連れ立って来たってことは……公安はオレにその件を対応させたいんだろ?さては何か行き詰ってんな〜?」
「……俺は不本意だがな、対策チームリーダーが頭下げてまでこの計画を進めてるんだ。だから此処に来た。」


へぇ、あのヒゲのオッサンがねぇ〜なんて呟く拝田君の口元は終始にやにやと笑いつつも、何か思うところはあるのかその眼は酷く凪いでいるように私には見えた。
もしかしたら自分と同じ立場にいるかもしれない誰かに思いを馳せていたのかもしれない。

「で、条件は?」
「は?」
「オレに対応させるってことはオレを外に出すってことだろ?どーせジョーケンがあるんだろジョーケンが。オレの気が変わらないうちにさっさと言えよ。」

……まさかこんなにすんなり聞いてくれるとは思わなかった私と春野君はお互いに顔を見合わせてしまうも、早くしろよ〜と急かす声に我に返ると咳払いをしてから続けた。

「条件は公安特課の人間と24時間共に行動をすること・その人には絶対に逆らない・危害を加えない。また、……正直俺はこれは不要な気がするが、成果次第では恩赦も視野に入れる。以上。」
「――……え、マジ?ヒゲのオッサンどんだけ緩いんだよ。」
「思聞さん、な。」
「ハイハイシモンさんシモンさん。んで?誰がオレと組む訳?」
「俺が組む。何度も言うが正直不本意。」
「ゼッテーパス。」
「おい、お前。」

春野君が椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がると隔てているアクリル板に殴り掛かる。能力は流石に使わなかったもののその形相は普段の様子からは想像がつかないほどに怖かった。そんな様子を見ても拝田君は臆することなく言葉を続ける、自分の立場を理解しているからこそこっちを手玉に取っているのだ。

「……おーコワ。公安特課の春野威吹さんったら暴力的だねぇ、オレは今能力も制限されて両腕も拘束されてんのにさ。てかイイワケ?そんだけの豪華なジョーケンを提示してるって事は、シモンさんはオレがマシン相手にか〜な〜り必要ってコトだろ?オレの返事一つで成功確率変わっちまうかもしれない位にさァ!」
「っ、それは……!」
「オレの返事一つで公安のダメージが軽くなるなら安いモンだろ〜?」

どんなに不本意でもそれは事実だった。いくら強力な能力者を送り込んでいるとはいえ、マシンに詳しい人間がいるといないでは作戦の成功率は変わってくる。故に拝田君が条件を吞んでくれることが重要といえばそうなのだけれど、これが条件だと譲らない春野君にヤダヤダごねる拝田君。一向に進まない交渉に、私は溜息を吐くと立ち上がった。

「……ごめん春野君!」
「え?逢沢?!」

バシッと私はアクリル板に平手で紙を叩きつける。此れには春野君は当然として流石の拝田君も驚いた表情を浮かべていた。

「……公安学園対策チームリーダー思聞残からの命令書です。拝田丞、貴方の監視には私が付きます。」



――面会数日前、個別に思聞さんに呼び出された私は『恐らく拝田君は監視役についてゴネるだろう』と春野君にも内緒で託されていたのだ。ホントは使わないほうが良いんだけどな、大事な作戦だからこそホケンをホットけんからな!と。……まあ本当に使うことになるとは思わなかったのだけど。


面会室に満ちる沈黙、数拍おいてからその喧騒は破られるのであった。



(ハイハ〜イ!逢沢せんぱいなら全然吞んでもイイッスよ〜いや〜流石シモンさんとやらは理解ってるッスね〜!)
(おい聞いてねえぞ思聞さん!!逢沢!!)
(これほんとに大丈夫なんですよね思聞さん……!!)
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