消えた手紙の謎
往々にして探偵には助手がいる。
シャーロックホームズ然り、明智小五郎然り。
その例に漏れず、私にもいる。
けど、私は本物の探偵なんかじゃあなくて、探偵役としてこの場にいる。
私たちが通う学校での窃盗事件を解決するために。
発端は、ビス君が私に助けを求めてきた事だ。
優しくて圧倒的な光属性のビス君は、近寄りやすく話しかけやすい。
だからかちょっとした悩み相談なんかも受けるのだが、如何せん彼は肉体派だ。
単純な荷物運びとか部活の助っ人だと一人で行って遂行してくるのだが、失せ物探しとか恋愛相談とかになると私に話を持ってくる。
失せ物探しはまだわかる、論理だてて考えるところがあるから。けど、恋愛相談って何?
それは恋愛相談の体を装ったビス君への告白でしょう!!
ともかく、ビス君が私にもってきた相談事がいつものものよりめんどくさそうだったのだ。
なんでも消えた手紙を探してほしいらしい、今更手紙?古風なことをするものだと思ったが(ラブレターだったりして)とても大事なものらしく、一刻も早く見つけてほしいとのこと。
依頼主は隣のクラスの、セシリア・ノット。
詳しい話を聞くと、昨日の夕方委員会の当番の時間が迫っていて慌てて支度をしたら、教室の机の中においてきてしまったらしいのだが、朝来てみるとなくなっていたと説明してくれた。
彼女曰く、盗んだ犯人の心当たりが三人いるらしい。セシリアが手紙を持っていた事を知っているのはこの三人だけらしかった。
なら私はまず、犯人は誰か聞くところから始めよう。


証言者1  ギルバート・ノットの場合
「お名前をお願いします」
「....ギルバート・ノット」
「セシリアさんとのご関係は?」
「兄だ」
「お兄様だったんですね、昨日の夕方ごろ何をされていましたか?」
「何って、授業が終わった後そのままバイト先に行ったけど」
「そうだったんですね、よろしければどこで働いているのかお聞かせ願えますか?」
「あー、学校から歩いて二十分位のところにあるカフェだ」
「もしかして、『Meer』ですか?」
「あぁ、よくわかったな」
「たまに行くんです」
「なぁ、こんなことを聞いてくるのってあれだろ?セシリアの手紙の件じゃないか?」
「えぇ、そうです。よくわかりましたね。心当たりでも?」
「いや、昨日の夜妹から聞かされたんだ。それとあいにく俺には無理だ。昨日はバイトに遅れそうで、距離のある妹の教室に寄ってから行くなんてできないんだよ」
「そうでしたか、じゃあ犯人に心当たりは?」
「さぁ?でも関係あるか知らないが、最近変な奴に付きまとわれてるって妹から聞いたような」
「その方のお名前は判りますか?」
「なんだったかな....独特な名前だった気がするが」
「そうですか、参考にしますね」
「なぁ、手紙なるべく早く見つけてくれないか。妹にとってとても大切なものなんだ」
「もちろんです。大切なものが無くなるのはとても辛いですものね。ご協力ありがとうございました」


「ねぇ紫紅、この人が犯人なのかな」
「まだ一人目だよ、でも良い人そうだったね妹想いで」



証言者2  イーサン・リー
「お名前をどうぞ」
「イーサン・リー」
「セシリアさんとのご関係は?」
「知り合い..かな、委員会が一緒なんだ。けど、そこまで親しい訳ではないんだよ」
「昨日の夕方何をしていたかお聞かせ願えますか?」
「えっと、本を返しに図書室に行って、そのあと部活に行ったんだ」
「どのような本を借りていたんですか?」
「たしか『モモ』だったかな。部活で必要で時間に関する本を片っ端から読んでるんだ」
「なるほど、どの部活に所属していますか?」
「サイエンス部だよ。もうすぐコンテストがあってね、実験だったり論文を書いたりで忙しいんだよ」
「それは、お疲れ様です。それでは、セシリアさんの事をどう思っていますか?」
「え!?いや、あの、それは…その」
「あ....失礼しました。ご協力ありがとうございました。頑張ってくださいね」
「ねぇ!!!なにが!?!?違くないけど違う!!!」


「ねぇ紫紅、今気づいたんだけどしゃべり方がいつもと違うねなんで?」
「これがコミュ障の私が編み出した完全外行き面よ!知らない人と話すときはこうすると楽なの」
「へー!よくわかんないや!」
(なんで私こんな圧倒的光属性と友達になれたのかしら)



証言者4  アリヤ・ローニン
「お名前をうかがっても?」
「アリヤ・ローニンよ」
「セシリアさんとのご関係は?」
「友達とでも言えばいいのかしら」
「昨日の夕方何をしていましたか?」
「何ってセシリアとしゃべっていたわよ」
「そのとき何か変わったことは?」
「さぁ?」
「それはそれとして、図書室に行きました?」
「行ってないわ、なんで行く必要があるの?用事があるわけでもないのに」
「ごめんなさい、ちょっと気になって。でしたら、セシリアさんのお兄様に聞いたんですけど最近彼女付きまとわれてるらしいんです、誰かわかります?」
「付きまとってるの間違いじゃなくて?」
「付きまとってる?誰にですか?」
「イーサンよ!!最近よく一緒に居るのをみかけるの」
「はぁ、イーサンについて何か知ってることはありますか?」
「知ってたとしても教えるわけないでしょ」
「はぁ、そうですか。そういうことね」
「何?」
「いえ、何でもないです。ありがとうございました」




「ねぇ紫紅、あんなに詰められて怖くなかったの?」
「ああいう高圧的な人は慣れてるの、私の故郷の学校にはたくさんいるわ」
「へぇ〜、なんかやだなぁ。大丈夫だったの?」
「関わらなけりゃいいだけよ」



依頼者の話   セシリア・ノット
「お名前は?」
「私もやるの?セシリア・ノット」
「間柄は本人ですね、ではお兄様のことを教えていただけます?」
「お兄ちゃん?お兄ちゃんは私にとてもやさしいの、最近私のためにバイトを始めてくれて。ビス君にはいったんだけど、私この間育ててくれた祖父が死んじゃってね、なんかあってもせめてお前だけは学校を卒業させてやるって。だからお兄ちゃんが犯人だったらやだな」
「私から見てもとても良いお兄様だってよくわかります。ではイーサンのことを教えていただけますか?」
「彼とは委員会が一緒なの、昨日も私が当番をしてる時に本を返しに来たついでにちょっと話したの。彼が手紙のことを知っている理由?おじいちゃんが死んじゃったでしょ、彼と当番が被ったときにね耐えられなくて泣いちゃったのその時にポロっと。あんなにやさしくしてくれた人が犯人だったらやだなぁ」
「おそらく彼は....いや、何でもありません。では、アリヤについては?」
「....実は彼女の事あんまり知らないのよ」
「と、言うと?」
「あのね、最近あの子に付きまとわれてるの。手紙の事だって彼女には知られたくなかったんだけど、手紙を読んでるときを見られちゃってね」
「そうなんですか、それは災難でしたね」
「でも今日は関わってこなかったな、なんでだろ」
「それは....いえ、ご協力ありがとうございました」









今日は午前授業だけだったのに、聞き込みをしていたら夕方になってしまった。
今私は、ビス君と一緒に犯人のところに向かっている。
正直、私はこの事件について半分くらいしょうもないと思っている。
「ねぇ紫紅、犯人判った?手紙の行方は?」
「わかったわ、けど、手紙が無事かどうかまではわからない」
「なくなっちゃったのかな、無事だと良いけど」
「半々ってところ、ねぇアリヤさんあなたでしょ犯人」
そう声をかけると、曲がり角からアリヤが現れた。
その顔はトマトみたいに真っ赤だった。大方バレないと思っていたのだろう。
「なんで、なんで私だってわかったのよ」
「簡単な話、あなたの運がなかっただけ。手紙の存在を知っている三人の中で、あなただけが彼女と親しくなかったのよ」
ギルバートは、自分の学校生活より妹を優先するほど妹想いだ。イーサンも鎌をかけたら案の定顔を真っ赤にして滅裂な否定をしてきたし。
「紫紅どういうこと?」
「痴情の縺れってやつだよ、アリヤはイーサンが好き、イーサンはセシリアが好きって具合のね」
痴情の縺れほどしょうもないものはない、だいたい、自分のことを好きでもなんでもない認知されてるかどうかすらわからない相手を、無理やり振り向かせようだなんて無謀にもほどがあるでしょうに。
「うるさい!あの女前から気に入らなかったのよ!なのに、イーサンは私のことをみてくれない!」
「あなたみたいな自己中女男ならだれでも願い下げじゃない。ねぇビス君」
「えぇ!?俺に振るの?そうだね、自分ばかり優先してる子は嫌かな」
案の定取り乱してる、このまま適当にしゃべってればボロを出すだろう。
でも私も疲れたのでそろそろおしまいにしたい。
「ねぇ手紙はどこ?」
「そんなの破り捨てたわ!だってどうせラブレターでしょ!イーサンへの!そんなの許さない!」
感情的、スイーツ、自己中。よくここまで生きてこれたと思ったが、それもそうだ大方の女子はそんなもんだ。
私はたまたまその枠から外れてしまっただけ。
それに、人のものを盗んで剰え破り捨てるなんて、これはもう一介の学生である私の手にはおえないんじゃあ…。
もうなんか、全部警察に丸投げしたくなってきた。
「だいたい勘違いが多すぎるのよ、手紙はラブレターじゃないし。大方身内からの手紙ってところでしょうよ」
「身内?誰よ」
「....、守秘義務ってところで。イーサンからではないわ、絶対にありえない」
「嘘よ、絶対にウソ!!」
疲れたとか以前に、めんどくさくなってきた。
もうこれ会話になっていないでしょ。
セシリアさんに報告しに行った後に帰っていいかなぁ。
「はぁ、ビス君戻ろう。これ以上は平行線だわ。」
そう言って、踵を返そうとしたら頭に何か....しょうげきがき........て............。




消毒液の匂い、風の音、人の話し声。
どこか既視感のある、だけど体験したことのないはずなのにと頭が混乱してきた。
「…に!……しべに!紫紅!!」
声がする、私寝てたんだっけ。
違う、寝てない。頭に衝撃が来て?それで....、しょうげき?
「っっいったーーい!!!なんでこんないたいの??!もうやだぁ!!!」
「紫紅おきた??よかった!」
「何!?ここどこ?保健室???」
全身がズキズキする、頭打って体もなんか合ったわけ?
その疑問を感じ取ったのかビス君が、
「最初は頭を殴られたんだ、そのあとバランスを崩して倒れて床に強く打ち付けたんだ」
「こんなのたんこぶできちゃうよ」
「あはは、でも頭の殴りどころが良かったのか、そこまで心配いらないらしいよ」
「よ、よかった。じゃなくて!今何時?アリヤは?」
まさか逃げられたりなんかして。
「紫紅が気絶した直後に運よく先生が通りかかってね、そのまま指導室行きさ。さすがに現行犯で暴力だろ、無視はできないよ」
それなら、頭を打たれた甲斐があったのか....?
でもまあ、指導室行きなら余罪も出てくるでしょ。
「あ、それとね」
「なぁに?」
「明後日辺り紫紅からも説明を聞きたいらしいから、空けといてだって」
調査して、聞き込みして、外面かぶって、気を張り続けて。
なのに、なのにまだ私を働かせると??そんなのってそんなのって....、
「無理!!!!!!!!」




後日譚
今日の放課後は何もない、つまり私の大勝利ということ。
ビス君も部活でいない、面倒ごとを押し付ける先生も教室にはいない!
手紙事件のお礼としてカフェの割引券をもらったのだ、積読消化も兼ねて夜まで居座ってやる!!
そう意気込んだはずなのに、
「うわぁ〜〜!紫紅!大変だ!!」
あっれっれ〜??おかしいぞ?
部活に行ってるはずのビス君の声が聞こえる、あなた部活でスタメンだから行かなきゃいけないんじゃないの?
「今部活でしょ!行かないの!?」
「ミーティングだけだからいいの!それよりもチェスターの話を聞いてよ!とっても楽しそうなんだ!」
チェスター?そう思ってビス君の後ろを見るとやあ、と手を振ってきた。
お願いだから、面倒ごとじゃありませんようにと願いながら聞いてみる。
「紫紅、君は頭がいいだろう?そこで今度いつもの十一人でこんなものに行かないかと提案して回っているんだ」
「なに..これ」
そう手渡された紙にはリアル脱出ゲームCUBEと書かれていた。
「脱出ゲームだよ、面白そうだろ?謎解きがあるから紫紅が居たら百人力と思ってね」
写真には鎖でつながれた人間が映っている、それに端のほうに書いてあるのはフランス語?
少し気味が悪いと感じてしまった、けどこの感じだとビス君も行くっていうだろうし、他の子も参加するだろう。
私だけ行かないというのも申訳がない。
「行くわ、けど私にばっかり頼らないでね。やるからにはちゃあんとみんなでかんがえるのよ!」
「やった!じゃあ、後でみんなで細かいこと決めよう」
そう話してるうちに得体のしれない恐怖感が襲ってきた、これは本当に現実なのか、そうささやかれている気がした。
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