竹取物語・リターンズ

うちの家は代々竹製のかごやざるを作ることを生業としている。
男の跡取りはいなかったので私が現在父の仕事を手伝っているのだが、わりと遅めにできた子どもだったので父母というより祖父母に間違われることも多い。
それに関しては少し特殊な事情があって、実のところ私には血の繋がらない姉が居たらしい。らしいというのは私が生まれるずっと前の出来事で私はその姉を見たことがないからだ。
求婚者も後を絶たないほどの美貌の持ち主だったと聞く。しかしその姉は、ある日月に帰ると言い出し月の迎えが来てそれっきり会えなくなったという。
にわかには信じがたい話だったが私の父母はそんなつまらない嘘をつくような性格ではないし、それで長い間子どもが出来なかったことの慰めになっていたのならそれでいいと思っていた。
そんなわけで最近は年齢のせいもあって腰を痛めた父の代わりに材料の竹を取りに行くのがもっぱら私の仕事になってきている。今日も母が作ってくれたおにぎりをもって山へ向かう。

山へ行く途中、祝言が行われていた家があった。まだ幼い頃よく遊んでいた友人の家だった。人だかりの間から白無垢の着物を着た友人の姿が見えた。遠巻きに見ていたので私の事には気づいていないようだ。この辺りの家の子達は嫁入りの時期だ。
なんとなくしんみりした気分のまま慌ただしく移動する人の流れを見送って山への道をのろのろと歩き出した。
自分もそろそろなのか、と思いつつも頭の中には父と母の姿が浮かぶ。
うちには他に兄弟なんていないし、結局は私が面倒を見るしかないのだ。婿養子をとるという選択肢もありはする。
よく父と母に聞いていた姉のような美貌があればそれも可能なのかもしれないが、残念ながら私はその美貌には恵まれなかった。

山へ辿り着き気を取り直して作業を始めようと竹を吟味しているとふと眩い光を発している一本の竹に気がついた。まさか現実に存在していただなんて。
何かに突き動かされるようにしてその竹へ近づいて行くと幾分輝きが増しているような気がする。昔父が見つけたというあの竹のようだなんてぼんやりと考えていた。

だとしたらあの中には私の姉がいる可能性がある。

そう思い至ったところで私は踵を返して道を引き返した。
父も母ももう歳だ。余生は穏やかに過ごしてほしいと私は願っている。仮にあの話が本当だとするならばまた月に帰ると言い出した時にひどく悲しむのは目に見えている。優しい人達なのだ。だから悲しみが癒えるまでには時間がかかる。もっと正直にいえば面倒なことには巻き込まれたくないのが本音だ。幼い頃、眠る前に母が幾度となく話してくれた寝物語で聞いている分には夢のようなできごとで楽しかったのだが、巻き込まれるとなれば話は別だ。多少大袈裟に脚色しているかもしれないが姉の時のような大騒動を体感なんて絶対したくない。私は平凡に生きていければそれで良い。


「ちょっと待ちなさい」
『大丈夫です。何も見てません。見ていないことは存在しない。はい、オッケー』
「思いっきり目を合わせといて何言ってるんですか!こんな美少年が竹の中から出てきたんですから思わず家に連れ帰ってあれやこれや世話とか焼きたくなったでしょう?しかたないですねえ、特別に世話をすることを許可します。屋敷に案内しなさい、この下僕!」
『それただの召し使いじゃないですか!!うち、狭いんで!三人で生活するのも精一杯なんで!他所を当たってください』

待ちなさい、と喚き続ける少年の声を振り切り私は逃げるようにして山をおりた。



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