20170804
『よーよー樺根くんじゃん!』
「はい?!」
視察を兼ねて並盛に来ていた。どうやら今日は祭りがあるらしく人が多い。なんて都合がいい。多少見知らぬ顔があっても祭りに来た客だと周囲の警戒も緩むだろう。
人混みに紛れて移動していると屋台の並んだ賑やかな場所についた。
皆それぞれ食料や飲料を購入し飲み食いしながら屋台を回っているようだ。
犬も食べ物の匂いにつられてふらふらと屋台を移動している。しかしこうも人が多いとどうもいけない。犬を千種に任せ少し休もうと人通りの少なそうな木陰に入ったのがいけなかったのだろう。浴衣を着た女が声を掛けてきた。樺根の名で呼ばれるとなると黒曜中の関係者か。しかし顔を見ても心当たりはない。
「あの、どちら様でしょうか?」
『あ、転校生だから分かんないか。隣のクラスのなまえだよ』
「なまえさん…」
さすがに隣のクラスの人間までは把握していなかった。視察で来ていたので派手な動きはするつもりは元よりなかったのだが、知り合いがいるとなると動きが制限されてしまう。面倒な。内心舌打ちしつつさっさと退散願おうと笑みを張りつける。
『並盛のお祭りまで来てたんだ』
「探索ついでに寄ってみました」
ふーん。と相槌を打ちながら隣に腰かけてきた。
『ひとりで来たの?』
「いえ、連れがいたのですが人に酔ってしまいここで休憩中です」
『連れって女の子?』
「いえ、違います」
なんだ。尋問を受けているようなこの質問は。
『そっか。折角のお祭りなのに残念だね』
「そうですね。あ、君はお友達と一緒ではないんですか?」
『はぐれちゃったの』
「そう、ですか…」
嫌な予感がする。まさか最後までついてくる気ではないだろうな。ポケットの中にある携帯を取り出し千種に連絡をとろうとしたところで大きな音と共に目映い光が辺りを照らす。
『あ、花火!』
ぱらぱらと散り頼りなく消えていく火花を待たずに次々と打ち上げられる花火に目を奪われているとぽつりと隣から『きれい』と聞こえてきた。
『綺麗だね』
「そうですね」
携帯をそっとポケットに戻しこれが終わるまではと思い直す。小娘ひとりくらい後で撒けばいい。
『さて、花火も見たことだしやりますか!』
「…まだ終わってませんよ?」
『お祭りの醍醐味を教えてあげよう』
「醍醐味、ですか?」
ふふふ、と不敵に笑うなまえに気を取られていると不意に近づいてきて唇を塞がれた……………うん?その勢いのままころんと押し倒され目を瞬かせているとよいしょと言いながら跨がってくる。
「あの、」
『お祭りといえば人目を忍んで物陰でエッチなことをするカップルが続出するという定番の隠しイベントが発生するんだよ樺根くん』
「は?!というより定番の隠しイベントの時点で色々おかしいですよね?矛盾していませんか?」
『まあまあ落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから』
「何が大丈夫なんですか!全然大丈夫じゃないですよ!!」
『これも人助けだと思って!ちょっと目を瞑ってじっとしてれば大丈夫だから、ね?』
「は、はぁ?!人助けって…」
『だって夏休み明けに友達に馬鹿にされるじゃん!また今年も処女だったって!』
「いいじゃないですか別に。その、大事にした方がいいですよ」
『いいの。中学最後の夏休みの思い出に私を女にして、樺根くん…』
「……僕には荷が重すぎます」
ふうーと重々しいため息をはいたかと思えば、きりっとした表情をして僕の顔の横にバンっと勢いよく手をついた。あ、これって壁ドン…じゃなくて床ドンとかいう…これはちょっとときめきますよねぇーっていやいやそんなのはどうでもいい。
『わかった。じゃあ今から土下座するから!』
「土下座ってなんですか?!止めてください。人に見られたら完全に僕、悪者じゃないですか!!」
『ええい、まどろっこしい!据え膳食わぬは男の恥だよ樺根くん』
「なんですか、それ…」
いいから、いいから。と伸びてきた手が捕らえたのは僕の息子の納まる場所で、ちりちりとファスナーをおろして取り出し乱暴に擦りあげられた。
「ちょ、痛い、痛いです。もっと優しく扱ってください」
『あ、こう?』
「ああ、そうです。そんな感じです……って違う!」
『えっ、違ったの?ごめん…』
ぱっと手を離して心配そうに眉を下げて僕の息子を恐る恐る撫でる姿にきゅんと胸が疼き始め………だから違う!!ガンっと地面を叩くとびくりとなまえの肩が震えた。驚かせてしまったのかもしれない。しかし僕は謝りませんよ。とりあえず離れてもらってそれから………
ぺろりと生暖かい感触が息子を襲う。
は?
えっ、
息子の様子を確認するとなまえが舌をちろりと出して先端を舐めていた。
『ごめん、痛かったんだよね…大丈夫かな…』
しゅんと項垂れて心配そうに息子を見つめるなまえ。
「あの、その…」
…さすがに今ので元気になってしまったとは言いづらい。そして今まで気にならなかった際どく捲れ上がった浴衣から覗く白い太ももが妙に落ち着かない気持ちにさせる。
「祭りの醍醐味、教えていただけるんですよね?」
『えっ…』
気がつけばそんなことを口走っていた。
花火も終盤を迎えたのか連続して打ち上げられる音がどこか遠くで聞こえてくる。
*
それが丁度一年前の出来事だった。
そして今、僕の目の前には一年前と同じ浴衣を着たなまえが『よーよー六道くんじゃん!』と声を掛けてきた。多分僕はこれから人通りの少なそうな物陰で祭りの醍醐味を味わうことになるのだろう。