温かな家

初めて貴方に出会ったとき私はこの人の一番にはなれないのねと思った。

貴方はマフィアの暗殺部隊とかいう物騒な仕事についていたし、貴方の上司である人に絶対の忠誠を誓っていたから。
それでも貴方は私に気づいて私を選んでくれて優しくしてくれたり素敵な贈り物やキスやセックスもたくさんくれた。
それに何より家族というものを私に与えてくれた。幸せだったわ。子宝にも恵まれて何の不自由のない暮らし。
貴方が私達家族のために過酷な状況で頑張って働いてくれていることはわかっているの。とても貴方のことが心配だし感謝しているし愛しく思っている。だから普段あまり帰れない貴方の代わりに私は貴方が与えてくれたこの家庭を守ると決めた。
初めの頃は大変だった。慣れない育児に奮闘してうまくいかなくて泣き出しちゃたこともあったけれどそれでも子ども達の笑顔と貴方のぶっきらぼうな愛情で乗り越えてこれた。

それでも私は貴方の一番にはなれない。

そんな貴方が大きな怪我をして帰って来たと報告を受けた。その報告を聞いたとき、ちょうど貴方の誕生会の準備を子ども達と一緒にしているところだった。いつかこんな日が来ることを覚悟していた筈なのにいざそれが現実に起こってしまうと子ども達の前で情けなく取り乱してしまった。
そんな様子の私を見かねたのか長男が不安そうに瞳を揺らす下の子達を宥め始め、そして「ここは僕が見ているから母さんは父さんのところへ行ってあげて。きっと父さんも怪我をして不安だろうから」なんて貴方にそっくりな瞳で毅然としてそう言ったの。
自分も不安だろうに、こんなにも頼もしく育って…!嬉しくて胸が熱くなって思わずぎゅうと長男に抱きつくと少し困った顔をして「苦しいよ」なんて言いながら背中に腕を回してとんとんと今度は私を落ち着かせるように抱き締め返してくれた。

それから大慌てで貴方のところへ駆けつけると、まだ興奮しているのか瞳孔の開いたギラギラした獣じみた瞳で周囲を睨み付け、再び戦場へと戻ろうとする貴方を部下の人達が必死に抑え込んでいた。
血だらけの腕でその全てを振り払い痛みに顔を歪めながら、それでも忠誠を誓ったあの人の為に命ですら投げ出そうとする貴方を見てやっばり私は貴方の一番にはなり得ないのだと思った。
それでも私は私の我儘を通すため貴方の前に立ちはだかる。
そうしたら貴方は今まで見たこともないような顔をして大きな声で私に向かって怒鳴ったわ。初めてのことだったから少しびっくりしたけれど私にだって譲れない矜持があるの。

「剣士の誇りを捨てろと、剣士の俺に死ねというのかぁ?!」
『死んでください』

貴方は普段こんな物騒な事を口にしない今まで従順だった私がそんなことを言ったものだから驚かせてしまったのかもしれない。
びっくりした顔からばつの悪そうな顔へと表情をかえてぼそぼそ何かを言っていたけど、ごめんなさい。普段の貴方の大きな声に慣れてしまってちっとも何を言っているのか聞こえないの。
私は剣士の誇りなんかより例え脱け殻になろうとも貴方に生きて欲しいの。だって貴方がそこにいることが私の、いいえ私達の幸せなのだから。
貴方にそっくりな子ども達が毎晩心配して貴方の帰りを待っていることだって知っている筈でしょう。だから私は私の我儘を通すために今全力を尽くす。全力を尽くして今日だけは剣士の貴方に死んでもらう。

暴れる貴方を包帯でぐるぐる巻きにしてくくりつけ担いで私は帰るの。
きっと誕生日会の準備をしているであろう子ども達の待つ温かな私達の家に。


20180313

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