▶クリスマス企画のはなし
▶mcと幼なじみ設定
クリスマスと言えば、プレゼント交換。ケーキだったり、イルミネーションだったりを思い浮かべる人は多いのだろうけど、私の中での一番のクリスマスの催しと言えばプレゼント交換なのだ。私は2週間前に選びに選び抜いて買った綺麗にラッピングを施されたプレゼントを大切に抱えて部屋を出る。渡す相手はただ1人。幼なじみにして、私の友人にママと呼ばれることも多い男。そう、剣持刀也その人である。これを本人に聞かれたら誰がママだ!と怒られそうなので割愛。
「とーうーやーくーん!あーそーぼ!」
「ああ、もう。だから僕の家に入る時に昔からの方法で試みるのはやめてくださいって何度言えばわかるんですか。」
「えー、だって。こっちの方が玄関まで刀也が迎えに来てくれて良いじゃん。」
「近所迷惑でしょうが。あと、普段は名前なんて呼ばないくせに。」
私の呼び声で家の扉を開けて、むすっ、と私に文句を言う彼の言う通り、私は学校で彼に会う際には剣持と苗字で呼ぶ。小中高と一緒に進んでいく内に、教科書貸して、ジャージ忘れただの、お弁当忘れるってあんたのお母さんに渡されましたけどなんて届けられた日にはあんたって本当に剣持くんに頼りっきりだよね。と言われることも多く、自分だけ下の名前で彼のことを呼んでいるのがなんだが私ばっかり好きみたいで恥ずかしくなった。先に私のことを名前で呼ばなくなったのは刀也の癖に。それでも、他の人と一緒にはなりたくなくて、二人きりの時はこうしてまだ彼のことを下の名前で呼んでいる。少しだけの我儘だ。
「あれ、私のお母さん先に来てなかった?」
「料理の材料が足りなかったとかなんやらで僕の母と一緒に買い物に行きましたよ。」
「え、…じゃあ刀也とふたりきりってこと?」
「なんですか、その反応は。僕とあんたは一緒に布団で寝たこともあるんですよ、今更でしょう。」
「ちょっと!!それは小さい頃の話でしょ。変な言い方しないで…!」
「いいから、寒いし早く入ってくださいよ。」
「…確かに。じゃあ、お邪魔するね。私ココア!」
「…馬鹿にしてるんだかなんだか分かんない言い方はやめろ!しかもなんで言ったものが出てくるっていう自信に溢れてんだよ…。」
だって、私が冬はココアを飲むからって家に常備していることは彼のお母さんから聞いてしまったのだから、仕方がない。そう言われてみれば、彼の部屋には似つかわしくない私専用の可愛らしいブランケットだったり、私がゲームセンターで取って無理やり押し付けたぬいぐるみだったりがあるのだから、つくづくこの男は私に甘いのだなと実感して、なんだか一人でに笑みがこぼれた。
「なに、笑ってんですか。」
これまた私専用のマグカップに私が好きな牛乳の多めのココアを入れた刀也がこちらを変なものでも見る顔で見てくるものだから面白くて笑ってしまった。
「刀也ってさ、私のこと大好きだよね。」
「…それ本人に言う言葉じゃないでしょうが。」
「ふ、いや恋愛感情で好きとか言いたいんじゃなくて。なんだろう家族愛?友愛?的な話ね。」
「…家族愛。まぁ、これだけ一緒にいれば情くらい沸くでしょう。」
「確かに、私も刀也のこと大切だよ。」
私の気持ちは恋愛感情のそれ、だけれど悟られないように彼のベッドにぼふり、と横たわった。私は彼にとってどんな存在なんだろう。男友達にしては、距離が近すぎるし、妹…?だなんて言ったらきっと「アンタは妹守備範囲外だよ。」とか言われそうだし、本当にさっき言った通り家族みたいなものなんだろうな。家族で良いなら、私が刀也のお嫁さんだって良いじゃないか。それだって家族なんだから。
「僕のこと無視して考え事ですか?」
「う˝、いや。うとうとしてただけだし。」
「入る前にふたりきりとか気にしてた癖に寝ようとするな。」
「だって、…刀也は私のことそんな目で見てないんでしょ?」
ちょっとだけ、あってないような壁の奥に踏み込んだ質問だった。大丈夫、顔は笑えてる。震える手はベッドのシーツの中に隠して見えないように。声だって震えてない。彼は大きくはぁ、とため息を吐いた後に部屋にあった紙袋をこちらによこした。
「…なにこれ。」
「今年のクリスマスプレゼント。毎年交換してる奴ですよ。」
「いや、それはわかるけど、なんで今渡したの。」
「いいから、開けてください。」
彼の有無を言わせぬ雰囲気に、質問を飲み込んで可愛らしいクリスマスのラッピングを解く。そこには私の好きそうな赤いチェックの
「…マフラー?」
「そう。もう何年も同じやつ使ってるでしょう。」
「え、ちょうど欲しいと思ってたし、すごい可愛い。」
「いつものマフラーだと寒そうだったから。それならアンタも寒くないでしょう。」
私の趣味を突いたマフラーはふわふわで暖かくて、それはもう大層気に入った。いつものマフラーは寒さをしのぐにはもう元気がなくて、そろそろ買い替えるつもりだったからタイミングもばっちりだ。けれど、やっぱり今どうして渡したのかはわからなくて。マフラーを手に持ったまま、そろりと彼の目を見れば、こちらをまっすぐ見つめる目とかち合った。
「マフラーを渡す意味ってわかります?」
「わ、かんない。」
マフラーを相手に渡す意味なんて、知らなかった。このマフラーの意味を問いかけるってことは彼はこれを意味があって私に渡しているのだろう。この布一枚の意味で私たちの関係が大きく変わってしまうのかと思うと、期待不安どちらも混ざった感情が私の中を占める。
「本当に一度しか言わないからよく聞いてくださいよ。絶対に二度は言わないからな。」
マフラーを渡す意味は、僕は貴方に首ったけですってことなんだよ。と耳まで赤くした彼は恥ずかしさを隠すように私を抱き留めた。私のことを抱きしめた刀也の背中をそっと抱きしめ返せば、知らず知らずの間に唇が触れ合う。そんなの、嘘だ。私の方が好きに決まってる。何も言えず、じっ、と刀也を見つめていれば、彼はおもむろに口を開いた。
「うわ、甘い。」
「えっ、そ、そっ、そっちがキスしたくせに!文句言うな!」
「なんだか、あっけなかったですね。僕が悩んでた時間を返して欲しいくらい。」
「それは、どういう意味であっけなかったの。」
「どんな関係になろうが、あんたのこと大切でしかないってことですかね。」
う゛、と照れる私に刀也はしゃがんで、ベッドに座る私と同じ目線の高さで「もう一回キスします?」と言うものだから、それはもう彼が好きな気持ちと、なんだか負けた気持ちが混ぜこぜになって、それでもやっぱり頷きそうになったところで玄関の開く音がした。
「ちょっと、荷物運ぶの手伝って!」
「は、はーい!わ、わかった!」
買い物から帰ってきた母たちの声に呼応するように、私は刀也の部屋を飛び出した。あ、おい!待て!と後ろから声が聞こえたが、顔を合わせた瞬間に恥ずかしさで爆発してしまうのは紛うことなき事実だろう。また、私を追いかけて部屋を飛び出した刀也が、私が渡すはずだったプレゼントである手袋を開けるのは、また後日の話。そして、私を捕まえた刀也とプレゼントであるマフラーと手袋を付けて、いわゆるデートをするのもまた後日の話なのである。