▶クリスマス企画のはなし
▶aknと友達以上恋人未満
「ごっめん!待った?」
「ううん、全然待ってないよ。」
ぜえぜえと息を切らして走ってきた明那くんは冬だというのに少しだけ額に汗を滲ませており、それを見て、まだ待ち合わせには5分前だと言うのに急いできてくれた事実が面白いやら嬉しいやらで目を合わせて二人して笑った。
「今日は呼び出しちゃってごめんね。」
「暇だったし、大丈夫だよ。」
嘘をついた。本当はクリスマスに一緒に出かけられるなんて超ラッキーと喜んで、クリスマスはバイトガチ勢だね、とバイト先の子と語り合っていた癖に、心優しい同僚にうらぎり者!と言われながらも代わってもらい、私が明那くんを好きと知っている大学の友人にも連絡して、洋服だって今日の為に買った。化粧だって雑誌のクリスマス必勝モテメイクの部分を何度も読み返したのだ。以前、飲み会で理想の女の子はうどんがなんとか、海苔がなんとか言っていたけれど、友人に服装について聞かれた際に、白ニットとぼそり、と答えていたのを私の地獄耳は聞き逃さなかった。そんな感じで今日の私は白ニット、ずばり装備は最強なのだ。でも、装備は完璧でも悩みの種は山積みだ。
「どこから回ろうか。」
「ほんとに今日はありがとね。俺さぁ、女の子が何買えば喜ぶとかマジで分かんなくて。」
「その子がどういう系統が好き、とかも分かんない感じ?」
明那くんに今日呼び出された台詞を一言一句違わずに読み上げるとするならば、もし24日暇だったらプレゼント選ぶの手伝ってくれないかな?本当に暇だったらで大丈夫!とのことで、お察しの通り、私は明那くんと授業が被ることが多く、飲み会の席でも近くに座ることが多いだけの、話しやすい程度の好きな子へのプレゼント選び要員なのだ。
「あっ、え〜、う〜ん、そうだね。何が好きなんだろ。」
「その子は明那くん的には格好良い感じ?それとも可愛い?」
「それはもう、す〜〜〜〜っごい可愛いなぁ。」
「あはは、なにそれ、明那くんベタ惚れじゃんね。」
「……はは、そうかも。でも俺のこと好きかは分かんないじゃん!」
寒さのせいだけじゃなく、顔を赤らめる明那くんを見て、ああ、私はその子には勝てないんだなと痛感する度にちくり、と胸が痛む。相手が私だったら良かったのに。と街中のクリスマスツリーのオーナメントを横目に思った。
「そうだなぁ、何かアクセサリー系が良いんじゃない?」
「えっ!?重くない?大丈夫かな?」
「え、明那くんてっきり選ぶのに人呼ぶくらいだから告白でもするのかと思って。」
「あ、や、まぁ、確かに。そのつもりではあるんだけど。」
「それくらいの仲の子なら良いんじゃないの?」
努めて元気に振る舞い、明那くんの背中を勇気だしなよ!と言ってばしり、と叩く。私の勢いに押されたのか彼は
「そうだね…。もし失敗したら責任取ってもらうかんね!」
と冗談めかして言うものだから、いっそ失敗してしまえと思ってしまうのは、こんな聖なる夜には許されない気持ちだろうか。そう考えながらも、明那くんに女の子が好きなアクセサリーショップの候補を挙げていけば、私の耳元をじっ、と見つめて明那くんは問いかけた。
「そのピアスってどこで買ってるの?」
「え?私のピアスってこと?」
「うん、めっちゃデザイン良いなっていつも思ってたからさぁ。」
「それならこれ買ったところ値段も丁度良さそうだし、お店も近いから行ってみる?」
いいの?と尋ねた彼に、今日の目的は明那くんの買い物なんだから良いに決まってるじゃん。と返せば、そっかと驚くものだから、変な明那くんと笑ってしまった。
少し歩いたところにある店に到着すれば、クリスマスということもあり、そこは恋人にプレゼントを買いに来たであろう人で賑わいを見せていた。
「うわぁ、え、やっぱこういうところって一人で来るもんだよねぇ…。」
「ふふ、いや良いんじゃない?誰かと買いに来るのも明那くんぽいよ。」
「えぇ〜、何それ!絶対面白がってるやつじゃん!」
「あはは、そんなことないって!」
ふざけ合いながらアクセサリーを見る。どうやら買うものは来る前からピアスに絞っていたようで、ふと頭の中で彼の周りのピアスを開けている親しい子を思い浮かべてしまう。飲み会でいつも隣に座りたがるあの子だろうか、それともノートを仕方ないな、と言って貸してあげるあの子だろうか?考え始めればきりがない。
「ねぇ、」
ぼーっとしていれば明那くんに声をかけられて、びくりと肩が跳ねた。
「…びっくりした、どうしたの?」
「良いのありすぎて決めらんないんだけどさ、君はどれが好きとか…ある?」
「うーん、私はこれが好きだけど…、」
なんとなくクリスマス限定のピアスを指さした。なんだか、明那くんとの一日を私が過ごしたのだと忘れてほしくなくて。
「じゃあ、それ買うわ。」
「えっ、私が選んだやつで良いの?だって、」
即答する彼に、明那くんが好きな子に渡すやつでしょう?と小さな声で言えば、こちらをまっすぐ見つめて、「いいんだよ、それで。」と言うものだから、私は何も言えず、これくださいと店員さんに言う明那くんを見つめることしか出来なかった。それから数分後、ラッピングを終えた彼と一緒に店を出る。
「はぁ〜!めっちゃ良い買い物出来た!ありがとう。」
「…それなら、良かった。」
「あの、さ。よかったらお礼にカフェで休憩でもせん?」
「……い〜や、…ちょっと用事あるから今日はもう帰ろっかな。」
思わせぶりな態度は取らないで欲しい。クリスマスに一緒に出掛けられるという嬉しい気持ちは何処へやら、今は逃げ出したい気分で一杯だった。私を引き止めようとする明那くんの言葉を振り切って、今日は楽しかったよ。ありがとう、と足早に駆けだそうとする私の手を彼が掴んだ。
「ま、待って!お願い。もう少しだけで良いから一緒に入れない?」
「でも、ほら。…買ったプレゼント好きな子に渡しに行かないと。」
「…っ、君だから!」
引き止められて戸惑う私に彼は存外大きな声で言うものだから、咄嗟に振り返る。
「えっ…?」
「…お、俺が好きなのは、君なんだよ!だから、今日は狡いことした。…ごめん。」
俯く明那くんの耳は赤く、手にはじんわりと緊張からか汗が滲んでいる。冗談なんて言えるような雰囲気でもない。本当に信じて良いのだろうか。街は雪が降り始め、まさにホワイトクリスマス、という言葉が似合いの風貌だった。
「…じゃあ、今日はデートって思って良いの?」
「えっ?」
今度は明那くんが聞き返す番だった。
「私も、明那くんのことが好き。どうしても、クリスマス私のこと思い出せば良いって思ってプレゼント選んだ。だから、狡いのは私なんだよ。」
私の一言に顔をあげた彼は、こちらを見つめて、狡くなんてないよ。と泣きそうだったから彼の優しさに堪らなくなり、好き、と私の口からぽつりと言葉が落ちる。
「えっ、あのさ、両想いって思って良いんだよね?」
との問いかけに頷いた私を勢いよく大切にすると街中で抱きしめる彼に、周りの人がざわめいているのを感じるけれど、クリスマスの日くらい許して欲しい。ひとしきり私を抱きしめた後、はっず!と照れる明那くんに、今日ずっと可愛いなって思ってた。と言われれば、やはり私の装備は完璧だったのだな、と思って、彼のことを思って努力した自分を褒めてあげたくなった。それも束の間、彼の温かい手が私の手を取るものだから、二人で雪の降る街中を進んでいく。来年のクリスマスには雪は降るのだろうか。今から楽しみだ。きっと、その頃にはこのピアスも私の耳に馴染んでいるはずだから。