おはようと誓って/zh




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▶zhと恋人
▶来世を誓い合う話


「葛葉、起きて!」

ホワイトクリスマス、とはよく言ったもので一見聞こえは良いが、この吸血鬼と出かけるとなると最悪だ。1に寒い、2にやめねぇ?、3があるならその先だって四の五の言うのだ。今だって布団に張り付く葛葉を起こすのに必死なわけである。

「無理、無理無理だから!マジで寒いって!」
「冬なんだから当たり前でしょ!あっちの部屋もう暖房つけたし!」
「あっちの部屋に行くまでがぜってぇ〜無理。」
「我儘言うなあ!」
「お前、俺が我儘だって知ってて付き合ってんじゃねえの?」
「そーれ言うのは、ずるいじゃん。」

はい、対あり〜。と再度眠りにつこうとするこの男を何とか起こそうと布団を引っぺがす。あ、おい!と言われてもお構いなしだ。私はどうしてもクリスマスデートがしたいのだから、こんなところで負けるわけにはいかない。寒い、と私を湯たんぽ代わりに布団に連れ込んだ葛葉の吐息を首に感じて、それが少しだけ恥ずかしくてもぞもぞと身体の向きを変えた。そうして、未だに眠たげに目をこする吸血鬼に私の考え得る最高の脅し文句をかける。

「もう、起きないと、1週間ちゅー禁止。本気だからね。」
「はぁ!?」

反射的に飛び起きた彼に、笑いがこみあげる。それに合わせて、葛葉に好かれているのだと自覚もこみあげてきて少しだけの気恥ずかしさもある。これで、別にいいけど。なんて言われた日には立ち直れない。起きる?起きない?と聞けば、無言でのそり、と起き上がった葛葉をよしよしと撫でれば、「撫でんな!」と言われるかと思ったけど、すり、と手のひらに頭を押し付けてくるものだから格好良いくせに、可愛いのは卑怯じゃないか?と頭の中でひとり思った。

「朝ごはん、どうする?」

軽いものなら作れるけど、と言えば、彼は冷蔵庫を開けて中を見つめた。彼がででん!と取り出したのは昨日の残りのケーキで「朝から食べるの?」と聞けば、これが、クリスマスだけの楽しみじゃね!とにこーっと笑うものだから、そうなのかもしれないと思ってしまうような力が彼にはある。でも、やっぱり朝のケーキは昨日と変わらず甘かった。なんだか、もう若くないのだなと思って彼との違いに少しだけ悲しくなる。

「ん。」

ふいにキスをされる。身構えていないところにされたキスにむっとした顔をすれば、彼は悪びれもなく、私にこう言った。

「クリーム付いてただけだし。」
「嘘だぁ。」
「…嘘だとしても起きたんだからノーカンだろ。それともカノジョ、にキスしたらなんか罪に問われんの?」
「ああ言えばこう言う!」
「でも嫌じゃないの知ってっけどな。」
「う゛」

そんなの、当たり前じゃん、と言いかけて言葉を飲み込む。そうやって返してしまえば最後、キスだけじゃ済まずに今日の予定が全部ぱぁになるのは目に見えてる。せっかくここまで起こしたのだ。起こすために言った台詞の弊害がここで現れるなんて。好きな相手からキスをされたらそれは嬉しいし、その先も、と求めてしまうのは普通なことだとは思うけど、いくらキスされても、起きないと、という前提で条件出しをしたのは私だから今更、しないで!駄目!だなんて言った瞬間に私の負け、KOである。勝ち誇った顔の葛葉を見れば、もう負けているのだかなんだかは分からないけど。

ケーキを食べたお皿を洗い、あんなに眠たがってたはずなのに上機嫌の葛葉がそのお皿を受け取って、拭く。なんだかこういうふとした瞬間に堪らなく幸せを感じるのだ。ずっとこういう幸せが続いたら良いのにな、と思う。ぼけーっとしているように見えたのか、彼に呼ばれて振り向けば、つん、と頬っぺたをつつかれた。

「ね〜ぇ、葛葉。手濡れたままじゃん。」
「眠気覚めっかなって。」
「うわ、うざいなぁ。眠かったのは葛葉でしょ。」
「うざいは言いすぎだろ!」
「はいはい、そうだね。ごめんごめん。」

適当に謝ったのが癪に障ったのか、そのまま頬をぷに、と横に引っ張られる。

「いひゃい。」
「おーおー、反省したかぁ?」
「う〜。くうはー、ひゃなしてぇー。」
「ぶは、お前言えてなさすぎじゃね!」

全部典型的な子どもじみた行為なのに、なんだか面白くて2人してケラケラと笑ってしまう。本当に一緒にいるだけでこんなに幸せなのはこれからも一生彼だけだろうな、と心の底から思った。なんだかんだ私の我儘を聞いてくれるこの吸血鬼は、ひとしきり笑い合った後、しゃーねぇな、準備すっかぁと私の方をみて笑った。本当は家で過ごしたって悪くはないのだけれど、彼にとっての私と過ごす短い時間をなるべく彼に忘れられないようにしたいと思っているのは私の本音だった。それを知ってか知らずか、彼はなんだかんだ私のことを甘やかすのだ。

「出れんの?」

私より早く準備を終えた葛葉が、化粧をする私の後ろから声をかける。なんだその恰好は。タートルネックはえっちじゃない?しかもメガネさえもお洒落アイテムになるのだから元の良さって本当にずるいな、と思った。私なんて葛葉の隣に立つためにどれだけの時間をかけて化粧をして、服を選んでってしてると思ってるんだ。それだけ努力しても、家で私を抱く時に、「はっ、可愛いじゃん。」と余裕のない顔で彼は言うものだから、何が可愛くて何が可愛くないんだか分からなくなってくる。葛葉に可愛いって言ってもらうためにしていることなのだから、彼が可愛いと言うならもうなんでも良いんじゃないかとも思う。それでも、やっぱり釣り合う人間でいたいから今日も私は自分に魔法をかけた。私はチャームなんて使えないけどね。

「どう?」

準備が終わり、彼の前でくるりと一周して見せれば、「良いんじゃん?」との評価を葛葉先生に頂いたのできっと大丈夫。はい、ありがとうございます!先生。とふざければ、わけわかんな、とあしらわれる。冷たい、とごねれば、それならと隙あらばキスをしてこようとするので、リップとれちゃうから!と丁重にお断りすれば、ぶすくれる吸血鬼がそこにいた。なんだよ、もう可愛いな。夜なら何回しても良いよ、と言ってしまう私もなんだかんだで彼に甘い。

「じゃあ、行こっか。」
「おー。」
「忘れ物ないよね?」

自分の荷物を確認して、彼にも忘れ物はないか問いかける。少しだけピシ、と固まった葛葉になんだなんだ…?と思っているとおもむろに「忘れもんしてたわ。」と部屋に戻っていくものだから、やっぱり聞いて良かったな、と玄関で忘れ物を取りに行った葛葉を待つ。数分後戻ってきた彼に、「何忘れてたの」と聞けば、おもむろに肩を掴まれ、葛葉とは反対方向、玄関の方にくるりと身体を回された。

「えっ、え!?葛葉なに!?」
「いいから、前向いてろ!」
「は、はい!」

剣幕に圧されて元気にお返事をすれば、首元に冷たい感触を感じる。私はきらり、と光る可愛らしいネックレスをまじまじと見つめた。

「え、なにこれ。」
「首輪。」
「…なんだそりゃ。」
「それあれば、流石のお前でも俺んとこ戻って来れんだろ。」

来世でも、と言う彼を私は気がつけば抱きしめていた。そんなのってずるい。彼の長い人生で少しだけでも、記憶に残れたらそれで満足だったのに、そんなこと言われたら欲張ってしまう。彼との未来を、もっとこの先も歩んでいきたいと。なんだかそんな私の我儘を全部許してくれたような気がして、気持ちが溢れ出た。

「いいの…?私、葛葉とずっと一緒にいたいって我儘言っても、いいの?」
「おー、そんなの我儘に入んねえよ。」
「葛葉も許せないくらいの我儘言うかもよ。」
「それでもいいって。」

お前のこと愛しちゃってんだもん。と言われれば、もう無理だった。綺麗にお化粧をしたのにぼろぼろと泣く私に、泣いたならもう同じだろ、と葛葉は私に今までで一番優しいキスをした。なんだかんだで勝敗は葛葉の勝ちのように思えて、勝てないなぁと独りごちれば、まぁ、そうだろうな。と自信満々に言う彼を見て、クリスマスの勝敗は葛葉の勝ち、でも長い目で見たらやっぱり引き分けということにさせてもらおうかなと私は勝手に思ったのであった。



ゆめゆめ、忘れるな