happy school life ?

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高校生活が始まる前に両親が他界した。
ニュースにも取り上げられるくらい大きな交通事故だったらしい。そんな中、私だけが助かってしまった。運が良いのか悪いのか。残念ながらその時の記憶が綺麗さっぱり無くなっていて、気づいたときには親戚中からたらい回しにされ、挙句の果てには一人暮らしが始まるーーという、まるで映画や漫画の中にあるストーリーが始まり、その主人公が私、藤咲桜だ。
両親の死亡保険金の受取人の名前は私だったらしく、病院の先生や看護師さん、はたまた弁護士さんまでもが事故に遭うまでは面識もなかったのに親切にしてくれて、親戚中に回らないようにと手配してくれた。おかげでしばらくの間…高校を卒業するまでは生活に困らないと説明を受けたとき、正直、助かった。車椅子に座って包帯だらけの私が頭を下げてお礼を言ったときは、弁護士さんも病院の先生も…看護師さんたちも代わりに泣いてくれて、そこで私も現実を受け止めることが出来て、思いっきり泣いたっけ。
ただ、困った問題が一つだけ。進学を希望していた高校には行けないと言われてしまったことだ。
詳しくは教えてくれなかったけど、わがままは言えない。素直に頷き、病院を退院した。







「どこ見てんだ、お前!」

新しい高校の始業式が明日という日の夕方。
スーパーで買い物をした帰り道、すれ違った男の人と肩がぶつかってしまった。片手にお米、もう片方の手には野菜やらお肉が入った袋を持っていたし、重さに耐えきれずにフラフラしていた私が前をよく見ていなかったのも悪いのかもしれない。でも、私を睨む男の人は"わざと"ぶつかって来たのだ。

「おい、聞いてんのか!?」
『……ごめんなさい』
「謝れば済むと思ったら大間違いなんだよ!!」

その瞬間、持っていたお米を蹴られてしまった。ガンッと強く蹴られたお米が反動で吹っ飛び、私の体も後ろに倒れそうになる。よろめいたとき、誰かが私の体を支えてくれた。

「お前の方こそ何すんだ…あぁ?」

黒い髪に切れ長の瞳、そして学ランを着た男の人だった。彼は私を片腕で抱いたままギロリとぶつかって来た男を睨んでいる。とても強く、芯が通った正義の瞳だった。その勢いに押されたのか、ウッ…というような声を上げて逃げようとする男の背後に誰かがいた。その刹那。

「ちょっと待ちなァ。それは置いてってもらえますかィ?」

私の隣にいる彼と同様、学ランを着た男の人の栗色の髪がキラリと夕陽で光って見える。彼はどうやら男の腕を捻りあげているようだった。悲鳴を上げた男の手から落ちた緑の蛙のがま口財布は私の物。男の目的はスリだったのか…と一人で頷いている間にスリの男は逃げていて、栗色の髪の彼が財布を拾っていた。

「おい、大丈夫か?」

ふと声の主である切れ長の瞳の彼を見上げる。一瞬だけ目が合った。すると彼は思いっきり顔を反らし、私の体を支えていた腕を話して距離を取った。うん、仕方ないよね。私の頬にはまだガーゼが貼られているし、腕には包帯まで巻かれている。イケメンには目の毒だ。とはいえ助けてもらった事実は変わらない。

『た、助かりました、ありがとうございました』
「……っ、お、おう…」
「何カッコつけてやがる土方このヤロー早く死ね」
「てめ、総悟!!」

ぺこりと頭を下げた私に歩み寄り、がま口財布を差し出して来た、総悟と呼ばれた彼は私の顔をまじまじと見てくる。じっ…と見られる、私。な、何なんだろう…今更気付いたけど、彼もやはりイケメンさんだ。あの可愛がられるタイプの。というかそもそも見つめられるのはあまり好きではない。ので、静かに反らしつつも両手を差し出す。何も言わずに彼はがま口財布を私の手の中に置いた。

「気ぃつけときな」
『……あ、は、はいっ』

それだけだった。別に何かに期待していたわけでもないのだけど。がま口財布をポケットではなく今度はリュックの中に入れて落ちて放置されていたお米を拾おうとしたとき、誰かが先に拾い上げてくれた。土方と呼ばれていた彼が片手で軽々とお米を持っている。気付けば野菜やお肉が入っているもう一つの袋は総悟と呼ばれた彼が握っていた。

「家はどこだ、近くか?」
『え、や、あの、だ、大丈夫です!私だけで…!』
「そうですよ 土方死ね 後は俺が運びますから 頼むから早く死ね土方」
「いちいち死ね死ねうるせェんだよ、お前は!」

色々と言いたいことがあるのだけど、その前に私を間に挟んで言い合うのは止めてほしい……





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