恐るべきキャラ弁
早朝、まだ夢の中にいる私の意識は突然覚醒した。
私を叩き起こした犯人は、携帯電話。
アラーム仕掛けた時間はまだ先だ。
表示を見ると、緑間君からだった。
『ふぁー…何?真太郎…こんな朝早くからどうしたの?』
「名前…寝てたのか?」
『うにゃ〜…』
「起きろ。朝早くから悪いが、名前に頼みがあるのだよ」
『頼み?』
「今日のおは朝見たか?」
『まだだよー。寝てたもん』
「[おは朝]でな、今日の蟹座のラッキーフードは[キャラ弁]なのだよ」
…えーっと…それはもしかして…?
「今日、俺の分のキャラ弁を作って欲しいのだよ」
うわぁ、やっぱりかwww
『ご家族には頼まないの?』
「…面倒だからイヤだと断られた」
さもありなんw
『急な依頼で材料が限られているからね。お任せで良いなら作るよ。でも、キャラ弁は作るのに時間がかかるから、朝練には遅刻するかも?』
「任せるのだよ。…ありがとう。今日の朝練は、名前は、俺の我儘で出なくて良い様に交渉しておくのだよ」
エース様の特権をこんな事で使っていいのか? …いいのか。
電話を切った後、私はすぐに起きて食材を確認する。
『何を作ろうかなー?』
見付けた食材は、パプリカ、プチトマト、蒲鉾、かにかま、ふりかけ(卵・おかか)、鮭フレーク、海苔…etc
これで出来るキャラクターねぇ…
私は暫く考え込んで…はたと思い付いた。
以前、緑間君から借りた月バスの雑誌を取り出す。
私は急いでキャラ弁制作に取り組んだ。
さーってと、出来たー!!
うん、我ながら良い出来☆
何だかんだと作っていたら、つい楽しくなって凝り出してしまった。
もはや芸術的と言っても過言ではない。
『写メっとこ♪』
後は、ご飯が冷めるのを待って、蓋を閉めればいいだけ。
その間に朝食と身支度を整える。
自分の分のお弁当は、同時に余り物で普通に作った。
※※※
学校
お昼休みになった。
緑間君は私の席に来て、声をかけた。
「名前、頼んでいた物は作って来てくれたか?」
『もち。バッチリよ!』
「すまないのだよ」
そこへ高尾君が横槍を入れる。
「名前ちゃん、真ちゃんのリクエストでキャラ弁作ったんだって? …大変だよなー、彼氏が我儘だとwww」
『手間はかかったけど、意外と作るの面白かったよ』
「名前ちゃんは美術と料理得意だもんな! どんなの作ったの?」
『それは、開けてみてからのお楽しみ♪♪』
私は緑間君にお弁当箱を渡す。
緑間君は、お弁当箱の蓋を外した。
「………!!!!!!」
一瞬、驚愕に目を見開いて固まった後、すぐ蓋を閉めた。
高尾君が、そんな緑間君を不思議そうに見やる。
「真ちゃん、どったの??」
高尾君の問いを丸無視した緑間君は、青ざめて汗をだらだらかきながら私に言う。
「名前…これを…食べろ、と?」
『勿論、全部食べられる物で作ったよ。味も栄養も悪くない筈だけど?』
「そう言うこっちゃないのだよ!!!」
高尾君は、緑間君の反応に好奇心を抑えきれなくなって、弁当箱に手を伸ばした。
「見せて、真ちゃん!」
蓋を開けた高尾君は「ぶふぉっっw!!!」と吹き出した。
慌てて蓋を閉めて、腹を抱えてのたうち回っている。
「こりゃすげーわ!!弁当箱開けたら、リアル赤司が睨みつけているー!?wwwww」
そう。
私が作ったキャラ弁は、[赤司征十郎]超絶リアルバージョン。
蓋を開けたら、バストショットの赤司様とご対面、と言う図式だ。
つい美術部のくせが出て、ふりかけと鮭フレークで顔に陰影を付けたら、かなりリアルになってしまった。
ちなみにプチトマトは、赤と黄色の両方があったので、それぞれ半分に切って、蒲鉾に乗せて目にした。
私は俯いた。
『…朝早く起こされて…一生懸命作ったのに、食べてくれないなんて…』
緑間君は慌てた。
「名前…!ー…分かったのだよ、ちゃんと食べるから、そんなにしょげるな!」
緑間君は観念して目を一瞬閉じると、決心して蓋を開けて箸を取る。
そして、箸を付けようとした矢先だった。
緑間君の携帯電話が突然鳴り出した。
緑間君は、携帯のディスプレイを確認すると、そのまま固まった。
のろのろと携帯電話を操作して電話に出る。
「…何なのだよ、赤司。こんな時間に」
電話先の相手はなんと赤司君だった。
まるで見計らった様なタイミングだ。
…まさかどこかで見ているんじゃ…?
赤司様の事だ。…有り得るw
《真太郎、久しぶりだね。彼女が出来たんだって? …それにしても面白いキャラ弁を作ったね》
「何で、赤司が知っているのだよ!?」
《桃井から写メが送られて来たよ。説明文入りで》
緑間君は、私にギギィっと顔を向ける。
「…名前…桃井に送ったのか…?」
え?…あ、写メの事?
『てへ☆良い出来だったので、つい…』
「つい、じゃないのだよ!!!」
《ところで真太郎、そのキャラ弁をどうするつもりなんだい?》
緑間君は、一瞬沈黙してから返答した。
「…防腐処理を施して、神棚に祀って置くのだよ」
えええええええーーーーーっっ!????なんじゃそりゃーーーーっっっ!???
赤司君は満足気に答えた。
《そんな事の為に彼女は、真太郎に弁当を作った訳ではないだろう?
…僕の形をした物が、真太郎の血肉となっていく事を忘れないでさえいてくれたら、僕は満足だよ。
…邪魔したね。彼女によろしくと伝えてくれ》
電話は切れた。
緑間君は青ざめたまま、弁当箱の蓋を閉めて、私に差し戻した。
「名前…すまないが、やはり返すのだよ」
その時、私はそれどころではなかった。
目にゴミが入っていたのだ。
痛くて痛くて、涙がぽろぽろ出てきていた。
「名前…!泣かないのだよ」
「名前ちゃん!?…真ちゃん…食べてあげなよ」
高尾君が咎める目つきで緑間君を見る。
二人共、何か勘違いをしておろおろしている。
目が痛いんだよ!!
「なまじっか見えるからダメなんだよなー…なら、これでどうだ!!」
高尾君は緑間君の眼鏡を奪い取った。
「わっ!?何をするのだよ!?返せ!!!」
「真ちゃん、それで食べてみたら?」
結局、緑間君は、見えない状態でキャラ弁を食べてくれた。
「美味しかったのだよ。…ただ、ぼんやりとしか見えないから、口に入るまで何の料理か分からなかったが」
うわキャラ弁の意味ねぇwww
でも赤司君の言う通り、私の力作が緑間君の血肉になれて何より。
※※※
後日、桃井さんから返信メールが届いた。
桃井さんが、桐皇のメンバーにも写メを見せたらしく、桜井君が私に対抗意識を燃やして、リアルキャラ弁に挑戦すべくデッサンの練習を始めたそうな。
…副産物として、青峰君がリアルキャラ弁に恐れをなして、桜井君から弁当を取り上げる事はしなくなったんだそうだw