11月のサプライズ
(R-15※微エロ展開あり)
秀徳バスケ部は、いつも朝練があるから登校時間は早い。
ウィンターカップの優勝目指して、毎日激しい練習に明け暮れている。
私もマネージャーとして、朝練から顔を出している。
それでも、ささやかな息抜きの場はあった。
「おっはよーっす!名前ちゃん♪」
「おはよう、なのだよ苗字」
今日も秀徳一年生コンビは、仲良くリヤカー付きチャリで登校している。
『…おはよう、緑間、高尾』
「今日は宮地先輩の…やるんだろ?楽しみにしているぜ!!」
「…高尾が苗字の手料理が食べられる、と煩いのだよ」
『期待してくれてるとこ悪いけど、私は簡単なのしか作らないよ?』
「俺は、愛しの名前ちゃんのだから、楽しみにしてるんだよ!!」
またいつものが始まった。
高尾が軽い調子で絡むものだから、私はいつも冗談ノリだと思って返している。
『あー…はいはいw』
「真ちゃん、もしかして俺…相手にされてない!?」
「もしかしなくても、相手にされてないのだよ」
「酷っっ!!!」
「泣くな、鬱陶しい!!」
※※※
今日は11月11日、宮地先輩の誕生日。
秀徳高校バスケ部は、体育館の一角を片付けて、スタメンだけのささやかなパーティーをやる事になっている。
これは、スタメン同士の親睦を図る意味もあるので、後片付けをきちんとやる、時間を守るといった条件で、特別に中谷監督から許可を得ている。
と言っても、ウィンターカップの最中なので、試合日程に当たらない場合のみだけど。
木村先輩が果物を山程運び入れたので、マネージャーの私は、切ったり皮を剥いたりとてんてこ舞いだ。
『高尾!これ切って。…緑間も運ぶくらいは手伝ってよー!時間がないんだからさ…』
パーティといっても、高校生だからジュースとかで乾杯したり、ケーキ食べたり…カナッペとかサンドウィッチとか簡単な料理を出すくらいだ。
今回は、宮地先輩と仲の良い木村先輩が果物を沢山差し入れしてくれたから、かなり豪華なメニューになってる。
大坪先輩の音頭取りで、お誕生日おめでとう!の合唱と共に飲み食いが始まった。
どちらかと言うと、食べ盛りの男子高生には、こっちの方が本番なのかもしれない。
「木村、ありがとうな!苗字の作ったサンドウィッチもうめーぜ!」
宮地先輩は気に入ってくれたみたい…良かった。
…そう言えば、11月は、もう一人の誕生日もあるんだよなぁ…
続けざまだから、同じ趣向ではどうにも芸が無い。…さて、どうしようか…?
メンバーは練習で忙しいから、マネージャーの私が主にアイデアを出す事が多い。
私の隣でカナッペやミートローフを齧っている高尾を見ながら、どうしたものかと考える。
私の視線に気が付いた高尾が私を覗き込んだ。
「何?名前ちゃん」
『ううん。何でもないよ』
私の返答に納得しない高尾は、悪戯っぽく目を煌めかせながら訊いてくる。
「もしかして、今度の俺の誕生日の事でも考えてた?」
『えー、高尾の誕生日っていつだっけー?』
私はすっとぼけた。
「ひっでー!!名前ちゃん!忘れられてたなんて、和成泣いちゃう!」
高尾は私の肩に縋って、よよよと泣き崩れた。
その時、「気色悪いのだよ!」「今日は俺の誕生日なんだよ!いい加減にしねーと轢くぞ!?」と双方向から突っ込みと空手チョップが入った。
痛い、と騒ぐ高尾やメンバーのやり取りを微笑ましく見ている内に、私の中で一つのアイデアが浮かび上がった。
サプライズ企画なんてどうだろう?それこそ、高尾にぴったりじゃないか!?
うん、そうしよう!
私は頭の中でプランを練り始めた。
※※※
高尾の誕生日のプランはこうだ。
当日練習を終えて、高尾に片づけの手伝いを頼み、体育館の中にある、倉庫の中に彼を閉じこめてしまう。
その隙にパーティーの準備を調えて、彼を出す時にクラッカーを鳴らして、誕生日おめでとう!と皆で祝う。
私は、計画書をキャプテンに提出した。
高尾抜きのメンバーが部室に集まり、私の計画を細部まで詰めた。
いつもなら、わざわざ集まらなくても承諾だけ貰って、私が手配すれば済む話なのだが、
今回はサプライズがあるので、綿密に打ち合わせる必要があった。
普段から悪戯好きな高尾に仕掛ける事が出来るとあって、皆楽しそうだ。
特に宮地先輩は、高尾に悪戯を堂々としかける滅多に無いチャンスなので、いつも以上に張り切っているw
緑間は、そんな面々を見ながら溜息を吐いた。
「…俺の時は、サプライズが無くて良かったのだよ」と独り言ちる。
『緑間も、からかい甲斐があるから、ちょっとやってみたかったんだけどなぁ』と言ってみたら、
「…お前の次の誕生日の時は覚悟するのだな」と睨まれてしまった。…怖いってw
打合せが終わった後、私はキャプテンから監督に届け物を頼まれた。
そして、私が出た後の部室で何が話し合われたか、私には知る由も無かった。
※※※
そして11月21日当日-
練習が終わった後、残ったのはスタメンと私だけ。
皆で片づけを始めた。
打合せの手筈では、最後に高尾が棚の整理をしてる内に閉めてしまう事になっていた。
高尾がボールかごを倉庫の中に入れてる。
緑間が私にスコアボードを寄越した。
「苗字、これを倉庫に仕舞うのだよ」
『アイサー♪』
私はキャスターを引き摺って倉庫の中に入る。
その時。
後ろで重々しい音がしたと思ったら、倉庫の扉が閉められてしまった。
それどころか、ガチャリと鍵をかける音までする。
『……えっ!?』
もしかして…私まで閉じ込められた!?
私は茫然と扉の前で立ち尽くした。
まさかと思いながら、扉に手をかけて引いてみる。
…ビクともしなかった。
何度取っ手を動かしても、ガチャガチャ鳴るだけで、扉は開かない。
やっぱり鍵をかけられてしまった様だ。
私は扉を叩いた。
『先輩っ!!私まで閉じこめないで下さいっ!出して!!!」
その時、後ろから出てきた手が、私の頭上でとんっと扉を突いた。
『…高尾』
「…名前ちゃん、どうやら俺達は閉じ込められちゃったみたいだな?」
『う、うん…』
どうしよう…
発案者である私まで一緒に閉じ込められちゃうなんて…
今更出されても、サプライズが台無しになってしまう。
外の準備は、私抜きで出来るだろうか?
「…しゃーねーな。こうなったら出して貰えるまで、中にいるしかねーもんな。ま、仲良くやろーぜ?」
高尾は、ニヤリと何か企んでいる様な笑みで、両手を扉に突いた。
私は後ろから腕の中に閉じ込められた。
『高尾?』
密着した高尾は、私の耳元に口を寄せて囁く。
「んでさー…この事態は名前ちゃんの仕業?」
『えっ!?』
「さっき、"私まで"って言ったっしょ?」
く…鋭い。
もう少しの辛抱だ。
準備が整って出されるまで、何とか誤魔化しながら時間稼ぎしなくちゃ。
『な、何の事?』
「名前ちゃん、俺に誤魔化しが効くと思ってんの?…言わないなら…襲っちゃうよ?」
襲うって何だよ!?
『高尾っ!!いい加減に冗談は…!』
私は高尾の正面に向き直り、力一杯彼を押し退けようとした。
が、一瞬にして私の両手首は彼の片手で易々と捕えられ、纏めて頭上で拘束された。
そして、高尾が私の顎を捕えて上を向かせる。
「俺、本気だけど?…こんな事冗談で出来ねーよ」
いつもの彼の軽薄なまでの陽気さは影を潜め、鋭い漆黒の瞳が私を絡め取る。
私は思わず身震いをした。
高尾って…こんな…男っぽかったっけ?
まるで…いきなり知らない人になったみたいだ。
私の顎を捕えていた手が、ゆっくりと首を撫で、そのまま肩を撫で下ろす。
そして私の胸を優しく擦る。
『…やっ!』恥ずかしさに私は身動ぎした。外に皆いるのに…!
「名前ちゃん可愛い。堪んねぇ…襲っちゃうよ?」
再び囁かれて、私は観念した。
『分かった!言うよ。言うから手を放して!!』
「…残念」
彼は呟くと、漸く私から手を離した。
私は息を整えてから白状した。
でもこれじゃ、サプライズ失敗だ。
「…ふうん?名前ちゃん、誕生日覚えててくれたんだー?…サプライズ…ねぇ?」
『折角計画立てたのに…』
私がしょんぼりと言うと、彼は私を抱き締めた。
「やっべー…俺、名前ちゃんが誕生日祝ってくれるの、すっげー嬉しいんだけど!
…名前ちゃん、俺にサプライズはいいから、プレゼントくれね?」
『プレゼントって…私ケーキしか用意してないけど?』
「ケーキより甘いのが欲しい!」
私は首を傾げた。
ケーキより甘いものって…高尾って、そんなに甘党だったっけ?
つか、キムチが好物じゃなかったっけか?
『…?ケーキより甘いのって…お汁粉?』
「それは真ちゃんだろw」
「俺が欲しいものはね…」
高尾は会心の笑みを浮かべて、私の瞳を覗き込んだ。
「名前ちゃん、君の事だよ。俺に名前ちゃんを頂戴?」
『うぇっ!?』思わず変な声が出てしまった。
我ながら色気の欠片も無い。
私は狼狽えて視線を彷徨わせた。
…どうしよう。
「名前ちゃん、…俺の事嫌い?」
『…嫌いじゃない』
それどころか、心臓が暴れているよ。…恥ずかしい。
「じゃあ…好き?」
『…分からない』
高尾は、少し苦味を含んだ微笑みを見せた。
「分からない、か。じゃあ、俺も少しは見込みあんのかな?」
『…高尾は良いヤツだと思うし…友人としては大好き。…だけど、恋愛対象として真剣に考えた事なかったから…』
「なら、これから考えてくんね?」
高尾の言葉に私は素直に頷いていた。
今まで高尾の口説き文句にときめいた事なんて無かったのに…
私は変だ。今の高尾にはドキドキしている。
…一緒に閉じ込められた事による、吊り橋効果ってヤツだろうか?
なら、ここを出されたら、私は元通りになるのかな?
私は高尾の顔を至近距離で見ながら、そんな事をぼんやりと考えていたから、気付くのが遅れた。
『……え?』
高尾の顔が迫ったかと思ったら、唇に柔らかいものが押し当てられていた。
逃れようと身動ぎしたが、腰と頭をガッチリ押えられていたので、ビクともしない。
私は空気を求めて喘いだ。
『んっ…!は……っ』
その時、勢い良く扉が開いた。
耳を劈く破裂音がしたかと思ったら、キラキラした紙吹雪が辺りに舞う。
「Happy Birthday高尾……!!!って、何やってんだ!?てめーら!!?」
クラッカーを持った宮地先輩に突っ込まれる。
大坪先輩は咳払いした。
「…高尾、お前な…男女交際は良いが、そう言う事は、大っぴらにやらん方がいいと思うぞ?」
「…全く…恥ずかしい奴等なのだよ」
緑間まで…!?
『つーか、あんた達っ!!私をわざと閉じ込めたでしょ!?』
緑間は眼鏡のブリッジを上げた。
「ふん、良いサプライズになったのだよ」
『私にサプライズしてどーするよ!?』
「高尾には何よりのプレゼントになっただろ?」
木村先輩もニヤニヤしている。
私が何かを言うよりも早く、高尾が私を抱き寄せた。
「あざっす!!!何よりも嬉しいプレゼントっす!!」
そして、私の顔を見て破顔した。
「名前、これで俺達はバスケ部公認の仲だな!!」
…もしかして…私、嵌められた?
でも、そのまま流されちゃっても良いかな、と思ってしまっているあたり、どうやら私は彼に絆されてしまった様だ。
私は赤く染まった顔を見られない様に、そのまま高尾の胸に埋めた。
Happy Birthday高尾!!!
(2014.11/21)