上手に結べてたんだよ


「帰ってきた!」


 名前はエプロンを脱ぎ、玄関に続く短い廊下を走る。御幸がキャンプから帰ってきたのだ。実に一ヶ月振りのご帰還である。

 とはいえ御幸は空いた時間を見つけては連絡をくれていたし──寧ろその頻度は名前が心配してしまうくらいだった──、何年も何年も会えなかったわけでもない。それでも会うのが久し振りであることには変わりなく、嬉しさと、そして一抹の面映さとに包まれる。

 走ってきた勢いのまま、威勢よくドアを開ける。


「一也!」
「ただいま」
「おかえりっ、お疲れさ──」


 皆まで言い切る前に、口を塞がれていた。
 触れる柔らかな唇の感触に、一ヶ月前去り際にくれた名残惜しそうなキスが蘇り、目を閉じる。漸く触れ合える嬉しさを噛み締めつつ遠慮なく唇を割ってくる御幸の舌を受け入れると、御幸は腕に名前を抱えたまま器用に荷物をおろして靴を脱ぎ、より深く名前の口内を撫で回った。

 一頻り接吻を堪能してから顔を離した御幸は、名前を抱き締めたままくんくんと鼻を鳴らす。


「家ん中めちゃくちゃいー匂い」
「一也の好きなものたくさん作ってたの。一応お風呂も沸かしておいたけどどっちから⋯⋯あ、それとももう少し『わたし』? なんて。ふふ」


 人生で一回くらいは言ってみたい台詞だよねぇ、と冗談めかして言う名前を、御幸の不釣り合いに真剣な眼差しが射抜く。


「ん。お前」
「え?」
「お前にする」
「え、ちょ⋯⋯っ」


 気付けば名前の背は玄関の壁に押し付けられていた。しかも脚の間には御幸の膝がしっかりと入り込んでいて、簡単には身動きが出来ない。その膝が軽く持ち上がり、大腿の間をやわらかく、しかし確かに刺激してくる。
  

「あの、かず⋯⋯っんん」


 再度合わさる唇。
 壁に腕を付き覆い被さるようにして名前を貪る御幸は、名前の戸惑いが徐々に身を潜めていくのを気取るや否や、服の裾から手を差し入れ脇腹を上り始めた。つつ、と肌をなぞる指先に、反射で身を捻る。しかし壁と御幸の身体とに阻まれ逃げ場はなく、御幸の手はそのまま胸のふくらみを覆う。
 
 人差し指だろうか。既に存在を主張しているふくらみの中央を下着の上から容易に捉え、く、と軽い力で捏ねてくる。一ヶ月程度では名前の身体を忘れることなどないと言われているようで、簡単に下腹部が疼いてしまった。


「名前。俺いねぇ間何もなかったか?」
「なんも、なか⋯⋯っ、電話のたびに、言ってたでしょ」
「そーだけど。やっぱ直接顔見て聞かねぇと」
「ん⋯⋯っ」


 キスの合間に、吐息の掛かる距離で御幸が囁く。その間も愛撫は止まるはずもなく、応じる名前の息は次第に上がっていく。
 

「一ヶ月も一人で、どーしてた?」
「どうって⋯⋯」
「アレ、ちゃんと使ったか?」
「つっ⋯⋯使⋯⋯っんぅ」
「なぁ、どっち?」
 

 耳朶の輪郭を御幸の舌が這う。ぞくりと首筋を伝う確かな快感に負け、言葉を上手く継げない。胸の先端は未だ虐められているし、もう一方の手にはいつの間にかお尻を揉まれている。しかし少しでも力を抜くと、脚の間に居座る御幸の膝に体重を掛けることになってしまい、それはそれで敏感な箇所が刺激されてしまう。
 

「⋯⋯っ、」
「なぁって」 
「使⋯⋯っいま、した」
「へぇ」


 羞恥に目元まで赤く染めた顔で上目に見上げると、瞳にぎらりと光を宿し唇を舐める御幸が視界いっぱいに入り込む。

 あ。何かのスイッチ入れちゃったかも。

 そう思った時には、クロッチの隙間から侵入した手に、愛液で湿潤とした会陰を弄ばれていた。

 その手が、陰唇を撫で上げて。


「挿れたんだ? ここに。自分で」 
「──っ、あ、ぁあん」


 くぷりと沈んだ指が、五指のうちの中指であることが分かってしまう自分もどうかと思う。が、そんな事よりも久し振りに与えられる快楽に酔わされる。的確に名前の弱いところを指の腹で押して、御幸は首筋に唇を沿わせながら問うのだ。
 

「どーだった?」
「⋯⋯っ」
「上手に気持ちよくなれたか?」
「ひ⋯⋯っんぅ」

 
 親指にやわく潰された蕾からびりびりと脳に走る気持ち良さに脚が震える。御幸の背をぎゅっと掴み、その肩口に顔をうずめる。

 確かに、使った。

 御幸のいない夜が続く寂寥感に負けた。発つ前に御幸が懇切丁寧に使い方を教え込んでくれた時の感覚に縋るようにして、気付けば手に取っていた。御幸の使う枕を抱き締めながら、御幸の声や吐息を思い出しながら、陰茎を模した玩具を挿入しスイッチを入れていた。

 しかし、どんなにリアリティをもって御幸を思い出そうとも。

 ──満たされなかった。
 

「ぜん、ぜん⋯⋯」
「全然?」
「全然、だめなの⋯⋯一也じゃなきゃ──っぁあ、あ」


 膝の裏に回された手に片脚を持ち上げられた、次の瞬間だった。開いた脚の間に、御幸の腰がぐぐっと入って。ずらされた下着の隙間から、張り詰めた屹立が余裕なさ気に、そして容赦なく名前の中へと突き立てられる。
 
 ずん、と。確かな質量が奥に響く。
 
 
「ひ、ん⋯⋯っぁあ」
「違ぇもんか? 形は似てるけど」
「んぁ、あ、一也ぁ、きもち⋯⋯っ」
「うん、けど⋯⋯声、聞こえちまうな」
「⋯⋯っ」


 今は夕飯時。各家庭の様々な年齢層が帰宅する時間だ。こんな集合住宅の玄関先での物音は、簡単に外へと通じてしまう。慌てて懸命に両手で口を覆うが、果たしてどこまでの意味を為しているのか。声の出口を塞いだところで、喉の奥から漏れる嬌声は抑えられない。

 そんな名前を尻目に、御幸は今頃になって思い出したかのように名前のブラウスの胸元で蝶々形に結ばれたボウタイを解き始める。御幸も御幸で耐え続けた一月だったのだろう。いつも余裕たっぷりの御幸が見せる稀な姿に嬉しさを覚えつつ、名前は焦がれていた逢瀬に身を投じたのだ。
 

 こうして会うなりすぐに求め合った二人が我に返り、「まぁ⋯⋯取り敢えず風呂でも入るか、一緒に」と、御幸が束の間名前の身体を離すまでに要した時間は常人のそれではなかった。しかも一緒に入浴だなんて。絶対にただでは済まない。

 再会の喜びを身体的な限界が凌駕した名前は、来年のキャンプは帰宅後すぐに寝てしまうくらいしごいてくれ、と思わず願ってしまったのだった。





◇上手に結べてたんだよ◆

 

みず様より、「結んで結んで結んだら」続篇