愛の謂れを知ったんだ
かつての陣平は、こう思っていた。
結婚は重荷だ。誰かと一所で仲睦まじく生活を送るなんてできる気がしない。誰かといるぶん自由に使える時間は減り、それに比例するように自分の何かがすり減る。ましてや子どもなんて。その存在を足枷と思ってしまう未来の自分が、容易に想像できた。
想像、できていたのに。
「⋯⋯ぁっ、じん、ぺ」
「ッ、んな腰の振り方、どこで覚えんだ」
それがどうだ。
名前と出逢ってからというもの、留まるところを知らない愛おしさばかりが募って、募って。気が付くと陣平は、名前と一緒になっていた。結婚など自分には無縁のものだとあれほど思っていたのに、だ。
確かに自分一人の時間は、独身の頃に比べると減った。名前に自由を制限されるわけではないのだが、共同生活というもの自体にはやはり制限がつく。やらなければならないことも、気を遣わなければならないことも増えた。
しかしそのどれしもを、名前の存在が上回るのだ。名前の顔を見たくて、家に早く帰る。やるべきことを終え、各々好きに過ごしていても、結局名前が気になって、名前を懐に置いた状態が一番寛げるようになってしまった。
名前が、大切だ。
可愛くて仕方がない。
これは胸の奥のほうから自然と沸き起こる気持ちだった。自分の中にこんな気持ちが芽生えるなんて思いもしなかった。知らない感情が沸き起こるたび、自分が自分でないみたいで、少しこそばゆい。
「じん、ぺぇ⋯⋯っ」
「ん、だよ、?」
「んぅ⋯⋯ぁ」
陣平の上に跨がり、淫らに腰を動かしながら、名前は幾度も陣平を呼ぶ。その声に息を荒げながら応じると、名前の唇が、嬌声に埋まり声にならなかった「好き」を形どったように見えた。
堪らずに縊れた腰を掴み、下から突き上げる。それまで自分のペースで動いていた名前は、陣平の突然の挙動に背を反らせて甘い声を上げた。
陣平を求め、そして満たしてくれる名前といると──恐らく本能的に──思うのだ。こいつとの子どもが欲しい、と。特に最近は希求と言ってもいいほどの感情だった。
自分が世の子どもを遍く好くようなタイプでないことは陣平とて自覚している。だが、名前の子どもを腕に抱く瞬間を想像すると、名前とともに家族で過ごす時間を想像すると、それはまるで史上の幸福のように思えた。
想像の中だというのに、だ。
いや、そこには確かに、この上ない独占欲と支配欲も紛れてはいるのだろう。綺麗事だけではなくただ、己の欲で名前を汚してしまいたい、そしてそれが許されるのは自分だけだという、誰に対してなのか分からぬ優越感も潜んでいるのだろう。
「──なぁ、名前」
「ん、?」
「俺、欲しいもんできちまった」
「なあ、に」
揺さぶられながら小首を傾げてみせた名前の耳に、くっと上体を起こした陣平の唇が近付き、囁く。
「──お前とのガキ」
「⋯⋯っ?!」
名前の動きがはたと止まる。次いで、ぱちくりと。一瞬だけ驚いた表情を見せてから、名前は俯いてしまった。
「⋯⋯⋯⋯名前?」
困らせただろうか。時期尚早だっただろうか。そう思い顔を覗き込むと、名前は眉を寄せ、唇を震わせ、今にも泣き出しそうな声で「うれしい」と。そう呟いたのだ。
その姿に、胸が詰まってしまって。
「ちょうだい、陣平⋯⋯っ」
陣平の首に腕を回し抱き着きながら、掠れた声で強請る名前を押し倒す。名前の中を掻き回していた男塊を引き抜き、被さっていた薄いゴムを取る。いっそう硬度を増したように思える屹立を、すっかり蕩けている入り口に充てがう。直に触れ合う体温。異様にあたたかい。待ちきれないと言いたげに伸ばされた名前の手に指を絡め、ぐ、と腰を押し進める。
途端、あたたかく柔らかな蜜道が直に絡み付く。その感覚だけで、陣平の奥深くからぞわぞわとした快感がせり上がり、頭の中を掻き回す。
「⋯⋯は、やべ、」
──興奮する。
これから自分の白くどろりとした欲が名前の最奥に流れ込み、その身を汚すのだと思うと、酷い興奮が陣平を襲った。
強く腰を打ち付けると、蜜道も呼応して収縮する。陣平を離すまいと締め付けてくる壁からは、引き抜こうとすればぐちゅりと淫らな音が響き、再度奥に穿つと肌と肌のぶつかる音が鳴る。
「ひ、ぅ⋯⋯深っ⋯⋯ぃ、」
「奥、好きだろ」
「ん、すき⋯⋯っ」
それを幾度も繰り返すうち、抗えない射精感が迫る。普段よりも随分と早い。勿体ないと、咄嗟に思う。思うのだが、快楽の方がずっと大きくて動きを止めることができない。
「⋯⋯ッやべ」
「んんぁ、も、だめ⋯⋯──っ」
しかし先に限界が訪れたのは名前の方だった。ぎゅっとシーツを掴んで、掠れた声で半ば泣くような嬌声を上げながら果て、懸命に快感を受け止めている。
その不規則で誘うような蜜道の収縮に、吐精のコントロールは陣平の支配下から容易く抜け出した。
「──ッ、出す、ぞ」
「ぅ、ん、っぁ」
未だ痙攣が止まらない名前のナカで、ぐり、と先端が奥を抉る。名前の口から声にならぬ息が漏れる。そのまま押し付けるようにして、陣平はその白濁を、名前の最奥に注ぎ込んだ。
「──ッ、は」
陣平の頭に快楽が突き抜ける。一時脳内を真白に染めるほどのそれを、瞼を閉ざしていなす。その間、陣平の体躯の下では、絶え絶えに息をする名前が「っあ⋯⋯ゃ、奥、あったか⋯⋯っ」と喘いでいた。いつもはコンドーム越しであったからか、何か感覚で違うものが名前にもあるらしい。
快楽が引き始めた頃、目を開ける。ぼんやりとどこかを見つめる名前を見下ろす。しっとりと汗ばんでいる額を撫で上げ、キスを落とす。そのまま唇にかぶりつき、抱き合いながら息を整える。
互いの呼吸が時間を掛けて落ち着きを取り戻す。名前の身体からもくたりと力が抜けた。陣平は上体を起こし、「⋯⋯抜くぞ」と腰をゆっくりと引く。
ずる、と名残惜しい感覚を残して、纏わり付いていた熱が消える。直後、名前の蜜口から陣平が注いだ白濁が溢れ出してくる。それを見た陣平の喉元が、ごくりと大きく上下する。
「⋯⋯零すんじゃねぇぞ」
「ん⋯⋯っ、でも、出ちゃ、う」
言われるがまま、懸命に大腿の間に力を込めようとする名前の腰を掴み、百八十度回転させる。臀部とともに高く上がった蜜口から、また、とろりと溢れる。
「ほら、勿体ねぇだ、ろッ」
「っひぁ、ああっ、ん」
溢れた白濁に濡れた秘所に蓋をするように、陣平は抜いたばかりの屹立を突き立てた。とても一度では収まりそうになかった。名前から真白な液体が溢れ出るところを見た途端、腰がずくりと疼き、屹立が漲った。
もう一度。
もう一度だけ。
そう思い続けながら、陣平は名前に夜通し愛を注ぐのだった。
[愛の謂れを知ったんだ]
松田陣平と子どもを願う