01
5月、E組に外国語の臨時講師がやってきた。
「イリーナ・イエラビッチと申します! 皆さんよろしく!」
イリーナと名乗った人物は、何故か殺せんせーにべったりとくっついている。
イリーナは美人で胸も大きくスタイルも抜群で、殺せんせーは顔をピンク色に染めてデレデレとしていた。
「な、なんというか……すごい先生が来たね……」
紗良の呟きにカルマが応える。
「今の時期にうちのクラスに来たってことは、絶対何か裏があるだろうね」
殺せんせーはイリーナに対して全く警戒する様子を見せていないが、この先生は只者じゃない、とクラスの皆が感じていた。
休み時間、殺せんせーの暗殺も兼ねて皆で外でサッカーをして遊んでいると、そこにイリーナがやってきた。
「殺せんせー!お願いがあるの。一度本場のベトナムコーヒーを飲んでみたくて……。買ってきてくださらない?」
上目遣いで色っぽくイリーナにお願いされ、殺せんせーは頬を緩めながら「お安いご用です」と言ってベトナムまで飛んでいってしまった。
すっかりイリーナに良いように扱われてしまっている殺せんせーに皆唖然としていると、チャイムがなった。
「えーと……イリーナ、先生? 授業始まるし、教室戻ります?」
磯貝がイリーナに声をかける。
「授業……? あぁ、各自適当に自習でもしてなさい」
イリーナはタバコを取り出し火をつけながら、冷い口調でそう告げた。
「あのタコの前以外では先生を演じるつもりはないわ。それから、私のことはイエラビッチお姉さまと呼びなさい」
イリーナを纏う雰囲気が先ほどとは全く違っていることにクラスの皆が気づく。
漂う緊張感に、紗良はごくりとつばを飲み込んだ。
「で、どーすんのビッチねえさん」
重い空気を破ったのはカルマだった。
ビッチねえさんと呼ばれることが気に入らなかったイリーナが「略すな!」と怒っていたが、カルマはお構い無く話を続ける。
「あんた殺し屋なんでしょ? クラス総掛かりで殺せないモンスター、ビッチねえさん一人でやれんの?」
挑発するようなカルマの言葉に、紗良は少しひやひやとしながら成り行きを見守る。
「ガキが。大人にはね、大人のやり方があるのよ」
そう言うと、イリーナは渚の方に視線を向けた。
「潮田渚ってあんたよね?」
きょとんとしている渚に、あろうことかイリーナはいきなりキスをした。
紗良は、目の前で友人がキスをされる光景を見て、思わず顔を真っ赤にする。
(ななななぎさくん……!!?)
10HIT……20HIT……30HIT……!!
紗良は見ていられなくなり両手で顔を覆う。
一方でカルマは、キスされる渚の様子を楽しそうに眺めていた。
「後で職員室にいらっしゃい。あんたが調べた奴の情報聞いてみたいわ」
渚はあまりのキスの上手さに気絶してしまったようで、イリーナの胸に顔を押し付けられて放心している。
「その他も、有力な情報を持ってる子は話しに来なさい。あと、少しでも私の暗殺の邪魔をしたら殺すわよ」
イリーナはそう言い残して、その場を去って行った。
殺す、という言葉の重みを感じるとともに、クラスの大半が、この先生は嫌いだと感じていた。
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