居てほしい(李/デビルズライン)
※夢主は一人暮らしの大学生
※時系列としては5巻あたり
今日は李くんが家に来る日。
約束の数時間前から私はそわそわしっぱなしだ。
(部屋の掃除もちゃんとしたし、服装も髪型もおかしな所はないよね……?)
鏡を見ながらチェックしていると、コンコンとベランダの窓をノックする音が聞こえた。
(あ、来た……!!)
私はぱたぱたとベランダの方へと駆け寄り、カーテンと窓を開ける。
「こんばんはー。ちょっと久しぶり?」
「李くん、こんばんは! 久しぶりだね」
ベランダに立つ李くんの姿を見て、思わず頬が緩む。
彼の名前は李・ハンス。
ドイツ国籍らしく、長身長髪で整った顔立ちをしている。
何故ベランダからやってきたかというと、彼が吸血鬼だから。
吸血鬼は身体能力が高く、屋根の上や電柱を飛び移ることができる。
なので私の部屋に来るときはいつも玄関からではなくベランダから来るのだ。
「李くん、どうぞ入って。……はい、これ約束の分」
私はいつものように、血液の入った容器を李くんに手渡した。
こうやって定期的に、私は李くんに自分の血液を渡している。
李くんは複数のドナーから少しずつ血液を買っているそうで、私もそのドナーの一人という訳だ。
「どーも。手持ちの分全部使っちゃってたから、助かるよ」
李くんはそう言うと、容器の蓋を開けて早速血液を喉に流し込んだ。
(目の前で自分の血液を飲まれるのは、なんだかドキドキするな……)
血液を飲むと、李くんの目の色が片目だけ変化した。これを変異というらしい。
李くんは人間と吸血鬼のハーフであり、訓練によって変異を片目だけに抑えることが出来るようになったそうだ。
毎日一定量の血液を飲むことで吸血欲をコントロールしているんだとか。
普通の吸血鬼は血をみると我を失ってしまうけれど、李くんは定期的な血液の摂取により血慣れしているから、血を見ても平気らしい。
「目の色、変わったね」
私はまじまじと李くんの目を見つめる。
「あ、もしかして怖かったりする?」
「ううん、平気だよ」
吸血鬼は、変異していなければ普通の人間と変わらないため、人に紛れて暮らしている。
私が李くんと出会ったのは、2ヶ月ほど前のことだ。
私は外で怪我をして血を流してしまい、そこに偶然通りかかった吸血鬼に襲われそうになったところを、李くんが助けてくれた。
そのお礼にと、私は李くんに自分の血液を渡している。
「そういえば今日は、いつもより可愛い恰好してるね。髪型も違うし」
そう言って李くんは私の髪留めに軽く触れる。
気付いてもらえたことが嬉しくて、頬が熱を帯びるのを感じた。
李くんに可愛いと思ってもらいたくてお洒落した、なんて恥ずかしくて言える訳もなく、私は適当に言い訳をした。
「あ、えっと、さっきまで友達と出かけてたから……。李くんこそ、いつもと髪型違うね! 今日は髪結わえてるんだ」
「あぁ、この方が動きやすいからって、つかさに勧められて」
「つかさ……?」
女の子の名前だろうか。親しげに呼ぶその名前に、ちくりと胸が痛む。
「あ、つかさっていうのは最近できた友達なんだけど、その子の彼氏が吸血鬼なんだ」
彼氏が居ると聞いて、ほっと胸をなでおろす。
その事を悟られないように、疑問に思ったことを李くんに聴いてみる。
「その、つかささん?っていう人は、普通の人間なの?」
「うん、そうだね。つかさはただの一般人だよ」
「吸血鬼って……その、普通の人と付き合ったり、結婚とかって、出来るの?」
そう言った後で、吸血鬼を差別するような発言だったかと後悔したが、李くんは特に気にした様子もなく答えてくれた。
「難しいけど、できないことはないと思うよ。特に安斎の場合は……あ、安斎っていうのはつかさの彼氏の事ね。
安斎の場合はハーフだから血慣れすることもできるだろうし、普通の吸血鬼に比べたら人間と付き合うことのハードルは低いと思うよ」
「そう、なんだ……」
じゃあ、李くんと私も付き合ったりできるのかな。
そんな考えが頭をよぎってまた顔が熱くなり、ぶんぶんと首を横に振った。
「どうしたの?」
「な、なんでもない!」
李さんは不思議そうに私のことを眺めていたが、何かを思い出したかのように「あ」と声を漏らした。
「もう18時だ」
「? 何か用事でもあるの?」
「いや、門限18時って言われてるから」
「え、李くんって誰かと一緒に住んでるの……?」
詳しくは知らないが、李くんは北海道の施設を1人で飛び出してきて、東京に来てからは1人で自由気ままに過ごしていると聞いていた。
「んー、説明が難しいんだけど、なんか人がいっぱい集まってるところで今は寝泊りしてるんだ。さっき言った安斎もそこにいて、門限18時って言われちゃったんだよね。早すぎでしょ」
そう言って李くんは不満そうに口を尖らせる。
その姿がなんだかかわいくて、私は思わず笑みを漏らす。
「そうだね。……でも、なんだか楽しそうだね」
「うん、結構楽しいかも」
そう言う李くんの顔は穏やかで、きっと素敵な居場所を見つけられたんだろうなと思った。
李くんはいつもフランクで明るい感じだったけれど、どこか影があるというか、孤独に慣れてしまっているように見えていた。
そんな李くんに、居場所が出来たならそれはとても嬉しいことだなあと思う。
私としては、少し寂しい気持ちもあるけれど。
「でも、そっか……。もう帰っちゃうんだね」
私はしゅんと項垂れた。
「……」
ふいに、ぽんっと頭の上に手を置かれて、私は顔を上げた。
「やっぱりもうちょっと居ようかな?」
「……! いいの?」
「そんな寂しそうな顔されたら帰れないよね」
「わ、私そんな顔してた!?」
「うん、してた」
「……。一人暮らしだから…その、寂しくて。なんかごめんね、引き止めちゃって」
「気にしないで。安斎にちょっと怒られたら済む話だから。それに、お得意様はご贔屓にしないとね」
お得意様。その言葉が引っかかって、私は口ごもる。
(もし血液をあげるのを辞めてしまったら、もう仲良くしてもらえないのかな……)
「……」
「ん? どうしたの?」
「……李くんがここに居てくれるのは……私が、ドナーだから?」
私の問いかけに目を丸くする李くんに、私はハッとして慌てて謝った。
(何聞いてるんだろう、私……!)
「ご、ごめん。今のは忘れて――」
「ドナーじゃなくても、なまえが居てほしいって言うんなら居るよ」
まっすぐに目を見てそう言われて、その言葉が嬉しくて、少し泣きそうになる。
「……っ、ありがとう。そ、そうだ、李くん。よかったらうちでご飯食べていかない? 私何か作るよ!」
ごまかすように、私はとっさに話題を変えた。
「ほんと? おなか減ってるんだ」
「よし、じゃあ張り切って作るね!」
そして私は逃げるようにしてキッチンへと向かった。
(どうしよう。あんな事言われたら、ますます好きになっちゃう……)
いつかこの気持ちを伝えられたらいいなと思いながら、私は作る料理に気持ちをたっぷり込めた。
2017.2.27
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