『れおくん』のことを『れんくん』と呼び間違えて怒られる話(黒鷺玲音/東京ディバンカー)
Dチャの着信音が鳴り、私はスマホを手に取った。
【今すぐガレージに来て】
玲音くんからの急な呼び出し。
おそらく、いつものようにスティグマの増幅器としての役目だろう。
私はヴァガストロムへと向かった。
ガレージに入ると、玲音くんはソファに寝そべっていた。
玲音くんは私に気づくと、わざとらしく大きなため息をつく。
「遅いんだけど」
どうやら今日はご機嫌斜めの様子。
こういう時は下手に言い訳せず、素直に謝るのが一番だ。
「遅くなってすみません、れんくん」
「……は?」
「あっ……」
一拍遅れて、名前を呼び間違えたことに気づく。
「す、すみません! さっきまで蓮くんに頼まれてゲームのお手伝いしてて、それで――」
「はぁ? 言い訳なんて聞いてないんだけど。人の名前間違えるなんてサイテー」
玲音くんの冷たい声と冷たい視線が突き刺さる。
「特待生サマは人の名前も覚えられないの?」
ここぞとばかりに責め立てられる。
そこまで怒らなくてもいいのに……と思いつつも、間違えたことは事実なので素直に謝る。
「ごめんなさい、玲音くん……」
「次、間違えたら許さないから」
「はい……気をつけます……」
その時、私はふと思った。
(そういえば、玲音くんは私の名前をちゃんと覚えてるのかな……)
「特待生サマ」なんて呼ばれ続けて、一度も名前で呼ばれたことがない。
もし、覚えてなかったら……。
少しだけ反抗心が芽生えて、私は聞いてみることにした。
「あの、玲音くん」
「……何?」
「私の名前、覚えてますか?」
玲音くんが一瞬、きょとんとした。
「は? 覚えてるけど。なまえでしょ」
玲音くんは当然のように答えた。
(覚えてくれてたんだ……)
玲音くんは私のスティグマを強化する能力にしか興味がないと思っていたけれど、ちゃんと名前を覚えていてくれたことが、少しだけ嬉しかった。
「何、名前で呼んで欲しいの?」
「い、いえ! 別にそういうわけでは……」
「ふぅん」
玲音くんは興味なさそうに肩をすくめると、ソファの隣を軽く叩いた。
「じゃあはやく座って」
促されるままに玲音くんの隣に腰掛ける。
玲音くんは私の手を取ると、指を絡ませる。
そして私の方を見てふっと悪戯っぽく笑い、耳元でこう囁いた。
「じゃ、静かにしててね。なまえちゃん♡」
「!?」
不意打ちの甘い声音に、心臓が跳ねる。
驚く私を見て玲音くんは満足したように目を細めると、いつものように<ハックス>と唱えた。
繋いだ手がじんわりと熱を発する。
それ以上に、私の顔は熱くなっている。
いつもより心臓がうるさくて、どうか玲音くんに聞こえてませんように……と祈るのだった。
2025/1/31
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