ベリアンがマドレーヌになっちゃった(ベリアン/悪魔執事と黒い猫)


※マドレーヌになったベリアンを主が食べる描写があります。



***



「ただいま〜」

「おかえりなさいませ、主様」

デビルズパレスに帰宅すると、ベリアンが笑顔で出迎えてくれた。

「主様、今日のおやつはマドレーヌですよ」

その一言で、疲れが一気に吹き飛ぶ。

「わーい! 楽しみ!」

「ふふ、それではご用意しますので、少々お待ちくださいね」

そう言い残して、ベリアンは静かに部屋を出て行った。



***



「ベリアンまだかな……」

ウキウキとした気持ちでマドレーヌが届くのを待っていたが、待てど暮らせどベリアンが戻ってこない。
いつもならすぐに戻って来るはずなのに、一体どうしたのだろうか。

「何かあったのかな……?」

私は心配になって、ベリアンを探しに1階へと向かった。



***



1階に降り、食堂の中を覗いてみるも、誰の姿も見当たらない。
どうやらここには居ないようだ。

別の場所を探そうと思い踵を返した瞬間、後ろから「主様」とベリアンの声が聞こえてきた。
私は振り返り、きょろきょろと辺りを見回す。

「ベリアン……? どこにいるの?」

確かに食堂の中からベリアンの声が聞こえたはずだ。しかし、どこにもベリアンの姿は見当たらない。

「ここです、主様」

「え?」

「こっちですよ」

声のする方を見ると、お皿の上にちょこんと乗せられたマドレーヌがあった。
まさかとは思いつつも、私はマドレーヌに向かって問いかける。

「ベ、ベリアン……? ベリアンなの?」

「はい、そうです」

返ってきた声は確かにベリアンのものだが、目の前にあるのは何の変哲もない、普通のマドレーヌだ。
私が戸惑っていると、ベリアンが申し訳無さそうに言った。


「すみません、びっくりさせてしまいましたね」

「ど、どういう事……? どうしてベリアンがマドレーヌになってるの?」

「それが、私にも分からないのです……」

ベリアンの声には困惑の色が滲んでいた。

「先程まで主様の為に紅茶とマドレーヌの準備をしていたのですが、気づいたらこの姿になってしまっていて……」

「そ、そんな……」

私は驚きで言葉を失う。

「これでは主様のお世話ができませんね、申し訳有りません」

この期に及んでベリアンは私のお世話の心配をしているが、今はそれどころではない。

「と、とりあえずルカスに診てもらおう!!」

私は、マドレーヌ(ベリアン)が乗ったお皿を抱えて3階の執事室に駆け込んだ。



***


「うーん……。長年医者をしてきましたが、こんな症例は初めて見ますね」

ルカスが珍しく険しい表情で診察台の上にあるマドレーヌ(ベリアン)を見つめている。

「じゃあ、ルカスにも治す方法が分からないってこと……?」

「残念ですが、そうなりますね」

「そ、そんな……」

他の執事やエルヴィラ様にも相談してみたが、良い解決策は見つからなかった。
自然に元に戻る事を期待したが、何日経ってもベリアンは元に戻らなかった。



***



「ぐす……もう二度と元のベリアンには会えないの……?」

「どうか泣かないでください、主様」

ベリアンは優しく私に語りかける。

「だって……だって……このままじゃ、ベリアンが腐っちゃうよ!!」

私が叫ぶように言うと、ベリアンは覚悟を決めたようにこう言った。

「主様……お願いがあります。私を食べて下さい」

「え……?」

その言葉に、私は一瞬何を言われたのか理解できなかった。

「このまま腐ってしまうぐらいなら、主様に食べてもらえるほうが私は幸せです」

「で、でも……」

ベリアンを食べるなんて、出来るわけがない。しかし、このままでは腐ってしまうだけだ。

「お願いします、主様」

その声には切実な願いが込められていた。
私はしばらく悩んだ末に、ベリアンの願いを受け入れることにした。

「分かった。それがベリアンの願いなら……」

私は覚悟を決め、マドレーヌになってしまったベリアンを口に運ぶ。

マドレーヌはしっとりふわふわの柔らかい食感で、上品な優しい甘さが口の中に広がった。
このマドレーヌは、まるでベリアンの人柄を表しているようだ。

「うぅ……おいしい……おいしいよベリアン……」

涙を流しながら、私はその甘さを噛みしめるように食べる。

「主様に美味しく食べていただけて、私は幸せです」

「ベリアン、痛くない?」

「はい、大丈夫ですよ」

食べ進めていくにつれ、どんどんベリアンの声が小さくなっていく。

「主様……ありがとうございます……」

その言葉が、ベリアンの最後の声だった。
私はボロボロと涙を流しながらベリアンを完食した。

「ベリアン……」

名前を呼んでも、もう何も返事は返ってこない。

「うわあああああん」

私はその場に泣き崩れた。



***



その時、聞こえなくなったはずのベリアンの声が聞こえてきた。

「……様。主様!」

はっとして目を開けると、私はベッドの上に横たわっていた。
心配そうな表情で私を覗き込んでいるベリアンは、ちゃんと人間の姿をしていた。

「すみません、主様。うなされていたようなので、起こさせていただきました」

「……ベリアン?」

「はい」

「私が食べちゃったんじゃ……?」

「え?」

ベリアンはきょとんと首を傾げる。
私はまだ夢と現実の境が曖昧なまま、目の前のベリアンをじっと見つめた。

「元の姿に戻ったの……?」

「……ふふ、主様はまだ寝ぼけているようですね」

ベリアンがクスクスと笑う。
ぼんやししていた頭がだんだんとはっきりしてきた。
どうやら全て夢だったようだ。

「……夢かぁ〜〜〜」

思わず大きなため息を吐く。

「どんな夢を見たのですか?」

「それは……」

私は口ごもる。
まさか「マドレーヌになったベリアンを食べる夢を見た」なんて、本人に言えるはずがない。

「……あまり良い夢ではなかったかな」

私が話したくなさそうにしているのを察したのか、ベリアンはそれ以上追及してこなかった。

「では、気分転換におやつにしましょうか、主様」

「うん!」

ベリアンは笑顔で言った。

「主様、今日のおやつはマドレーヌですよ」



2025/2/28



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