保健室の常連
私は昔から体が弱く、よく保健室のお世話になっていた。
今日も授業中気分が悪くなり、いつものようにふらふらと保健室へやってきた。
「失礼します……」
声をかけてみるも、反応がない。
保健医のジェシカ先生は不在のようなので、勝手にベッドを使わせてもらう。
一番端の窓際のベッドは私の定位置だ。
しばらく横になっていると、誰かが保健室に入ってくる音がした。
ベッドを区切っているカーテンの隙間から外の様子を覗いてみると、同じ学年のアッシュ君だった。
今まで話をしたことはないけれど、彼もまた保健室の常連だ。
彼は私と違って体調不良で保健室に来るわけではなく、授業をサボって寝に来たり、喧嘩して怪我の手当てをしにきたりする。
学校一の不良だという噂だけれど、よくジェシカ先生と仲良くお喋り――憎まれ口を叩きあっているのをここで聞いている限り、そんなに悪そうな人には思えない。
今日は、怪我の手当てをしにここへ来たようだ。
右腕がザックリと切れていて血が滲んでいる。
彼がこんな怪我をしているのは珍しい。
いつもは彼の友達が怪我をしていて、それを彼が連れてくるパターンが多いのだけれど。
彼の様子を眺めていると、どうやら救急箱の中に包帯が無かったらしく、あちこち戸棚を開けて探していた。
「包帯なら、ここにあるよ」
私はベッドから起き上がり、机の引き出しの中から包帯を取り出した。
まさか私から話しかけられると思っていなかったようで、彼は少し驚いた表情をしていた。
「……サンキュ」
「座って。手当てするから」
「いいよ。自分でやる」
「怪我してるの右腕だし、自分じゃやりにくいでしょう? いいから座って。ね?」
「……」
彼は渋々といった風に椅子に腰かけた。
傷口を消毒して、包帯を巻きながら彼に話しかける。
「君が怪我してるの、珍しいね」
「……こっちは1人だってのに、向こうが大人数で来たんだよ」
「大人数相手で、この怪我だけで済んだんだ?」
「返り討ちにしてやったさ。相手の方が重傷だろうな」
「ふふ、アッシュ君は強いんだね」
「俺の名前、知ってるのか」
「知ってるよ。だって君、有名人だもの。……はい、終わり」
救急箱を片付けてベッドに戻ろうとした時、めまいが襲ってきて身体がぐらりと揺れた。
アッシュ君がとっさに支えてくれる。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫、ありがとう」
私はアッシュくんに支えられながらベッドに戻った。
「あんた、いつもここで寝てるよな」
「うん。持病があって、それでよく体調崩しちゃって」
「ふぅん……」
「……私ね、保健室の先生になるのが夢なの。だからさっきは少しだけ先生気分が味わえて楽しかった。ありがとう」
私がそう言うと、礼を言うのは俺のほうだろ?とアッシュくんは肩を竦めた。
「あんたって、意外とお喋りなんだな」
「そうかな……。有名人のアッシュ君と話せるのが嬉しくて、浮かれちゃたのかも」
「はは、なんだそれ」
そう言って笑う彼の笑顔がなんだか可愛くて、もうちょっと見ていたいな、なんて思った。
「そういえばあんた、名前は?」
「サラ、だよ」
「サラか。覚えとくよ」
さっきは冗談半分で言ったけど、アッシュ君に名前を呼んでもらえて、ほんとうに浮かれてしまっている自分がいる事に気づいた。
これからは、保健室に来るのがちょっと楽しみになりそうだ。
2018.12.14
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