インテリ不良少年
あの日から、保健室でアッシュ君と時々話すようになった。
今日も今日とて、体調の優れない私は保健室に来ていた。
だけどもうすぐ試験が近いこともあって、ベッドに座って数学の問題集を解いていると、保健室の扉が開く音がした。
もう足音だけで誰が来たのか分かってしまう。
ベッドを囲うカーテンから顔を覗かせたのは、やっぱり彼だった。
「アッシュ君だ。いらっしゃい」
今日は特にケガをしている様子はないので、サボりに来たのだろう。
最近サボりすぎじゃない?と言いたいところだけど、その言葉は飲み込んだ。
だって、彼に会えるのが嬉しいから。
「なんだ、勉強してるのか」
彼は遠慮なく私のベッドに腰掛け、問題集を覗き込んでくる。
「授業休みがちだから、ちょっとでも自分で進めないとね…」
「真面目だな、サラは」
「アッシュ君よりはね」
それから特に会話らしい会話もなく、私はもくもくと問題集を解き進めていく。
だけど、後半の応用問題でつまづいてしまい、手を止めて考え込んでいると、それまで黙って見ていたアッシュ君が口を開いた。
「これは2倍角の公式を使うんだよ。sin2θ=2sinθcosθとして、そしたら対称式になるって分かるから――」
すらすらと解説を述べるアッシュ君の顔を私はぽかーんと見つめる。
「そんでsinθ+cosθを2乗して……どうした?」
「……。アッシュ君って、勉強も出来るんだね」
「意外か?」
「うん、とっても」
「……素直すぎるのもどうかと思うぞ」
少し拗ねたような表情を浮かべるアッシュくんにごめんごめんと軽く謝り、わからない問題を教えてもらいながら問題集を解き進めた。
「やっと終わったあ……」
問題を一通り解き終え、私はベッドに仰向けにバタリと倒れ込んだ。
「お疲れさん。そろそろ俺は戻るかな」
「ありがとう、アッシュ君。お陰で捗ったよ」
「どういたしまして。じゃーな、ちゃんと寝ろよ? 顔色あんまりよくないぜ」
そう言い残してアッシュ君は保健室から去っていった。
私はベッドの上で目を瞑る。
まさか、彼が勉強まで出来るとは思っていなかった。
容姿端麗、運動神経良好、おまけに頭まで良いなんて、ずるすぎる。
神様は彼に才能を与えすぎではないだろうか。
それに、優しい。
アッシュ君は本当に、ずるい人だ。
2018.12.21
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