それは恋の病


「さっきは、悪かった」



開口一番、アッシュ君はそう言った。



私は先程の出来事がよほどショックだったのか、久々に調子を崩して保健室のベッドで横になっていた。

今だけは会いたくなかったのに、アッシュ君は私が保健室に行ったことを知っていたかのようにすぐにやってきて、私に謝った。

私は何も答えないまま、布団にくるまり壁の方を向いてアッシュ君に背を向けていた。

謝られても、どうすればいいのか分からない。

そもそも、何に対しての謝罪なのか。

私が手を振ったのに目をそらしたこと?

それとも、私の事を"知らない"と言ったこと?



「起きてるんだろ?」

「……寝てる」

「……。怒ってるのか?」

「怒ってなんかないよ。ただ……」



悲しかった。それだけだ。



しばらく無言の時間が続いた後、アッシュ君が口を開いた。



「……あんまり、俺と親しいと思われないほうが良い。俺のこと恨んでる奴は多いからな。オーサーって奴いるだろ? 特にあいつは何するか分かったもんじゃない。だから――」



私はくるりとアッシュ君の方へ体を向ける。

アッシュ君は少し申し訳なさそうな表情を浮かべていた。



「……私のこと、嫌いになった訳じゃないんだ?」

「嫌いになんてなるわけないだろ」

「そっか。そっか……良かった」



そういう理由があったと知って、安心すると同時に涙が溢れてきた。

私は布団を引っ張り上げて顔を隠す。



「何も泣く事ないだろ!?」



珍しく動揺したようなアッシュ君の声が聞こえてくる。



「泣くよ。だって……だって私、アッシュ君の事好きなんだもん……」



布団に潜って小声で言ったから聞こえてないだろうと思ったのに。



「……先に言われるなんて、情けないな」

「え?」



私はアッシュ君に無理やり布団を剥がされ、アッシュ君は私の顔にそっと手を添えると、涙をすくうように目尻にチュッとキスを落とした。

そして、ひどく優しい声で、アッシュ君はこう言った。



「俺も、サラのことが好きだ」



事態が飲み込めていない私は、目の前にある綺麗な顔を見つめたまま硬直したあと、ハッと我に返って慌てて再び布団の中に顔を隠した。

体が燃えるように熱い。

たぶん私の顔は耳の先まで真っ赤になっているだろう。



「隠れんなよ」

「ア、アッシュ君のバカ!」


口じゃないとはいえ、いきなりキスされて、あんな風に好きだと言われて、心臓が破裂しそうなぐらいバクバクしている。


「嫌だったか?」

「そうじゃ、ないけど……」



布団から顔を覗かせると、アッシュ君は真っ赤になった私の顔を見てフッと笑った。



「じゃあ今度は、口にするから覚悟してろよ?」

「……っ!」



もう完全にアッシュ君のペースだ。

恋の病に冒されて、私はしばらく保健室のベッドの上から起き上がれそうになかった。





2019.1.6

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