守りたいもの(肥前)


「いらねぇ」

差し出されたお守りを受け取ることを拒むと、目の前に居る審神者は「えっ」と驚いた表情を浮かべた。

「おれには必要ねぇよ」

続けてそう言うと、審神者は首を傾げて少し考えた後「あぁ!」と納得したように声を上げた。

「このお守りはね、ただのお守りじゃなくて、もしも戦闘中にーー」

「知ってる。刀剣破壊を防ぐ為のモンだろ」

どうやら、おれがお守りの事を知らないと考えたらしい。この本丸に来てからは日が浅いが、曲がりなりにも政府の刀だ。そのぐらいの知識はある。

「だったらどうして……」

「折れたら、折れた時だろ。おれの代わりなんて幾らでも、」

「肥前くん」

普段笑ってるところしか見ないこいつの怒った顔を、この時おれは初めて見た。

「肥前くんの代わりなんて居ないよ。私は、肥前くんに折れてほしくないの」

真剣な眼差しでそう告げられて、何も言い返せなくなる。
再び差し出されたお守りを、おれはしぶしぶ受け取った。

「……分かったよ」

受け取ったお守りを懐に入れると、審神者はほっと息を吐いた。

「実はね、ちょっと心配してたの。肥前くん、捨て身な戦い方をしがちだって他の刀から聞いてたから……。でも、それがあればとりあえずは大丈夫だね!」

そう言って審神者は安心したように笑顔を浮かべた。
なんだか妙に落ち着かない気分になって、思わず視線を逸らす。

ーーもし、俺が折れたら。
さっきのように怒るだろうか。悲しむだろうか。
おれのせいで、一時的にでもこいつが笑っていられなくなるなら、それは良くない事のような気がした。

「お守り、大事にしてね」

「……あぁ」

素直に頷くと、審神者は満足そうにニコニコと笑顔を見せた。
つられて思わず口角が上がりそうになり、慌てて唇を引き結ぶ。

「ったく、何がそんなに嬉しいんだか」

悪態をついたはずだったのに、なんだか自分自身に言っているようにも聞こえて、やっぱり少し笑えた。



2022.6.1



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