りっちゃんのお世話係(凛月)
※夢ノ咲時代の話。
※notあんず。
※夢主は普通科の生徒。
※あんず出てきます。
『今日は生徒会の仕事があって、早めに学校行かないといけないから、悪いけど凛月の事よろしくな!』
朝、まおくんからそんなメッセージが届いた、
私は『了解!』と返して、いつものようにりっちゃんの家へと向かう。
「りっちゃん! 起きて! 朝だよ〜!」
「ん〜朝……? まだ俺の寝る時間なんだけど〜?」
布団にくるまったまま、りっちゃんがぐずぐずと寝返りを打つ。
「そんな事言ってないで! これ以上遅刻したら、また留年しちゃうよ?」
「それは困る……ま〜くんと違う学年になったら、お世話してもらえなくなる……って、あれ? ま〜くんは?」
「今日は生徒会の仕事があるから、先に行ってるよ」
「そっかあ。じゃあ……ま〜くんがいないうちに、なまえのこと食べちゃおっかな〜がお〜」
そう言ってりっちゃんは私の腕を引っ張って布団の中に引きずり込もうとする。
「ちょっと、りっちゃん!! ふざけてないで早く支度してってば!!」
「え〜……」
私がたしなめると、りっちゃんは不服そうに頬を膨らませながらも、しぶしぶ支度をはじめた。
***
私とりっちゃん、まおくんの3人は、小学生の頃からの幼馴染だ。
昔から、まおくんと私でりっちゃんのお世話を焼いていた。
私たちが甘やかしすぎたせいか、りっちゃんは高校生になってもこんな調子だ。
そろそろ自分ひとりで起きて学校に行けるようになってほしい、とは思いつつも……結局今日も、私はこうしてりっちゃんを起こしに来てしまった。
***
「疲れたあ〜……」
りっちゃんをアイドル科の校舎まで送り届け、私はようやく普通科の教室にたどり着いた。
「なまえ、おはよ。なんか今日、いつもより疲れてない?」
「あ、おはよう、サオリ」
サオリは私のクラスメイトで、数少ない友達の一人。
夢ノ咲に通う女子はアイドル目当てな子も多いけど、彼女は家から近いという理由だけで入学した珍しいタイプ。
りっちゃんやまおくんと仲が良い私に、あまりいい顔をしない子もいる中、サオリはそんなの全然気にせず接してくれる。
ちなみに私は、りっちゃんやまおくんと同じ学校に通いたいという理由で夢ノ咲を選んだ。
「今日も凛月くん起こしに行ってたの?」
「うん。今日はまおくんがいなかったから、大変だったよ〜。りっちゃんなかなか起きてくれなくて……」
私がブツブツ文句をこぼすと、サオリはくすっと笑って言った。
「でもさ、なんだかんだ言いつつ、毎朝ちゃんとお世話してあげてるじゃん。ほんと面倒見いいよね、なまえって」
「……まぁ、お世話するのは嫌いじゃないし……りっちゃんと一緒にいるの、やっぱり楽しいから」
「そっか、楽しいならいいんだけど……でもさ」
ふいに、サオリの声のトーンが少しだけ真剣になる。
「最近、ちょっと思うんだよね。なまえって、いつも凛月くんのことで手一杯になってて、自分のことは後回しにしてる感じ」
「そ、そんなことは……」
「なまえ、進路まだ決めてないんでしょ?」
「う……」
図星だった。返事に詰まった私に、サオリは少し困ったように微笑んだ。
「もうすぐ3年でしょ? そろそろ、自分のこともちゃんと考えてあげなよ」
「考えてないことはないけど……。まあ、普通に進学して就職、かなぁ」
「そっか……でも、それで本当に後悔しない?」
「……え?」
「高校卒業したら、今みたいに凛月くんとは一緒にはいられなくなっちゃうよ?」
「!」
「凛月くんってKnightsだよね? きっと売れっ子アイドルになるだろうし、一般人の私達はなかなか関われなくなると思うよ」
「……そう、だよね」
わかってたはずなのに、どこかで見ないふりをしていた。
卒業したら、りっちゃんは芸能界に入って、きっと有名になっていく。そうなったら、今までみたいに関わることも、お世話をすることも……できなくなる。
「……なまえは、それでいいの?」
「私は……」
そんなふうに話しているうちに、ホームルームのチャイムが鳴った。
私の思考は、その音にかき消されるように、宙に散っていった。
***
昼休み。
私はサオリに言われたことがずっと頭から離れずにいた。
卒業したら、もうりっちゃんと一緒にいられなくなる――分かってはいたけど、今まで真剣に考えたことがなかった。
これから、りっちゃんは芸能界に本格的に進んで、気づけば、いつの間にか住む世界が違う場所になってるかもしれない。
急に、りっちゃんの背中が遠く感じた。
そんな事を考えながら窓の外をぼんやり眺めていると、中庭のベンチで寝ているりっちゃんの姿が目に入った。
いつも通り、気持ちよさそうに目を閉じて、スースーと寝息を立てている。
(……ほんとにどこでも寝ちゃうんだから)
昼休みが終わる前に、起こしに行ってあげないと。
そう思っていると、ベンチの向こうから、一人の女の子が近づいてくる。
あれは……プロデューサーの、あんずさんだ。
彼女はりっちゃんの隣にしゃがみこむと、優しく声をかけているようだった。
りっちゃんはまぶたをうっすら持ち上げて、あんずさんの顔を見た途端、ふにゃっと笑った。
その光景に、胸がぎゅっと締めつけられた。
(……そっか。もう、私がいなくても大丈夫なんだ)
りっちゃんのお世話をするのは自分の役目だと、そう思っていたけど、 アイドルとしてのりっちゃんは、プロデューサーさんに支えられていくんだ。
私は静かにその場を離れた。
***
翌日。
私はりっちゃんに、思っていることを告げた。
「りっちゃん、あのね……。私、明日からもう……りっちゃんのお迎え、行かないことにした」
「え……なんで? 忙しいの?」
りっちゃんは不思議そうに首を傾げる。
「そうじゃなくて……。私もう、りっちゃんのお世話するのやめる」
「え?」
「私、思ったの。りっちゃんはアイドルで、私はただの一般人で、ずっと一緒にはいられないって。だからもう、りっちゃんのお世話係は卒業しようかなって」
「……」
「りっちゃんにはお世話してくれるプロデューサーさんがいるし……。私がいなくてももう大丈夫だよね?」
「……勝手に決めないでよ」
りっちゃんは珍しく怒りのこもった声でそう言った。
「俺はずっとなまえと一緒にいるつもりでいたのに」
「 りっちゃん…… 」
「なまえのバカ。もう知らない」
りっちゃんはふいっと顔を背けると、スタスタと足早に去っていってしまった。
***
りっちゃんを怒らせてしまった。
そんなつもりじゃなかったのに…。
あの日から3日が経った。
あれから私は1度もりっちゃんに会えていない。
きっと避けられているんだろう。
「はぁ……」
たった3日、りっちゃんに会っていないだけなのに、すごく長く感じる。
心にぽっかりと穴が空いてしまったようだった。
りっちゃんから離れようとしたのは私なのに、いざ離れてみるとこんな気持ちになるなんて……。
「りっちゃん……会いたいよ……」
りっちゃんの居ない生活はこれ以上耐えられそうになかった。
私はりっちゃん中心に生きていたんだと、改めて気付かされた。
りっちゃんは、私がいないと駄目だと思っていたけれど、りっちゃんが居ないと駄目なのは私の方だったんだ。
あんずさんがりっちゃんのお世話をしているのを見てモヤモヤしてしまった理由も、今なら分かる。
私はこんなにも、りっちゃんの事を……。
「なまえ」
ふいに、頭の上から聞こえた声。
顔を上げると、そこにはりっちゃんがいた。
「りっちゃん……?」
「ふふ、泣いてる。どうして泣いてるの?」
「りっちゃん……!!」
私は思わずりっちゃんに飛びついて、ギュッと抱きついた。
りっちゃんはよしよしと私の頭を撫でてくれる。
「ごめんね、私……」
「 やっと分かった? なまえは俺から離れられないって」
「うん……」
「反省してるなら、許してあげる。ねぇ、なまえ、俺とずっと一緒にいてくれるよね?」
「ずっと一緒にいるよ! りっちゃんと離れて気付いたの。私ね、りっちゃんの事……」
私はりっちゃんの目を真剣に見つめる。
いつもは眠たげなりっちゃんも、真剣に私を見つめ返してくれていた。
私は、思い切って伝えた。
「りっちゃんの事をお世話するのが私の生きがいなんだったって! 気付いたの!」
「…………うん?」
「だからこれからも、今までみたいにりっちゃんのお世話させてくれる……?」
「……バカ」
「いたっ」
何故かでこピンされた。
「りっちゃん、まだ怒ってる……?」
「怒ってる。けど……一生お世話してくれるっていうんなら、許してあげる♪」
「うん! 任せて! 一生お世話するよ!!」
「ふふ、じゃあ契約成立ね♪」
私はこれからもずっと、りっちゃんのお世話係だ。
2025.7.31
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