4月のとある日のお話し


(困ったなあ……)

ザアザアと大きな音を立てて降り注ぐ雨。
私はため息をつきながら、本屋さんの軒先で空を見上げていた。

今日は朝からずっと雨が降っていて、もちろん傘を持ってきていたのだけれど、学校の帰り道に本屋さんに寄り道して、傘立てに傘を置いて、本を買って出て来たら私の傘はなくなっていた。ついてない。

どうしようかなあと考えながら雨宿りしていると――。

(あ、あれは……)

数メートル先、黒い傘を差して歩いているのは、同じクラスの轟君だ。
轟君とは教室の席も近いがほとんど話したことは無く、「傘入れて!」なんて気軽にお願いできる仲ではないので、轟君が通り過ぎていくのをそのまま見守る。
……筈だったのだけれど。

私の視線にに気づいたのか、轟君が歩みを止めてこちらを向いた。
そしてばっちり視線が交わる。

「……」

「……」

急に目を逸らすのも失礼な気がして、中途半端な距離感のまま無言で見つめあう事、数秒。
轟君は何かを思案するような様子の後、方向を変えてこちらの方へと歩いてくると、私の目の前で立ち止まった。

「……何してるんだ?」

「えっと、傘盗られちゃったみたいで……」

あはは、と私は苦笑いを浮かべる。

「入ってくか?」

「え」

轟君からの予想外の台詞に、私はぱちぱちと瞬きをする。

「い、いいの?」

「あぁ」

正直申し訳ないという気持ちもあったが、この大雨の中を傘無しで帰るのはさすがに気が重かったので、有り難く好意に甘えることにした。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

私はおずおずと、轟君の隣に並ぶ。

「……そんなに離れてたら濡れるぞ」

「そ、そうだね」

そう言われてしまえば距離を詰めるほかない。
肩の触れ合う距離に緊張する私とは対照的に、轟君は全く気にした様子もなくいつものポーカーフェイスだ。
私がちゃんと傘の中に入ったことを確認すると、轟君は歩き始めた。

ぽつぽつと他愛もない会話を交わしながら、2人で帰路を歩く。
学校の授業の話とか、好きな食べ物の話とか、意外に話題には困らなかった。
轟君との会話が楽しくなってきたところで、分かれ道にさしかかった。

「あ、私こっちだから、ここまでありがとう」

「家まで送る」

「大丈夫だよ。あとは走って帰――」

「……じゃあこれ、持ってけ」

「え」

轟君は半ば強引に私に傘を押し付けると「じゃあな、また明日」と言って走り去っていった。
私はその後姿を呆然と見送る。
こんな事なら家まで送ってもらった方が良かったのかもしれない。
申し訳ない事をしてしまったなと思いつつ、親切にして貰えたことに嬉しさも感じる。

今まで、轟君の事を正直ちょっと怖い人だと思っていた。
口数は多いほうではないし、いつもクラスの輪からは一歩引いたところにいて、個性が氷結ということもあってかクールで冷たいようなイメージがあった。
けれど、話してみると中身は意外と穏やかだし、今日の行動から分かるようにとても優しい人だ。

(……もっと知りたいな、轟君の事)

そんな事を思いながら、私は轟君が貸してくれた傘の柄を大事に握りしめながら、家まで帰った。



2017.1.11

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