壱:千鶴誕生


 儚い夢を見た
 それはとても切なくて、切なくて――
 私は鳴き声をこの世に向かって上げた――

 丸裸の大木から突き出ている枝の先には大小の氷柱が地に向かって伸び下がっている。
 正月も過ぎて節分も終わった。そろそろ春に向かい始めようとしているこの季節。東国の鬼の一族である雪村の地は未だ白黒の景色に覆われていた。しかし、そのような厳しい寒さの中でも喜ばしいことが起こった。
 雪村の頭領の妻が男女の双子を生み落したのである。
 鬼の世界では女鬼の出生率が低い為、各々の地で女鬼が誕生すると、希少な存在として大切に扱われる。もちろん、片割れの男の赤子の誕生も里の皆が喜び合った。何故ならば、その男鬼は将来の雪村家の頭領である為、里の将来は安泰だと胸を撫でおろした。
 常に質素倹約を怠ることのない一族ではあったが、この時ばかりは誰もが何も文句を言わずに数日間だけ、身内だけの盛大な祝いを催した。そのような中で雪村の頭領もその妻も仲間たちが喜ぶ姿を見て目を細める。妻はこの双子が生まれるまで不安な日々を過ごしていたのだ。
 腹の中に二人の命があるかもしれないと医者から告げられたのは双子が生まれるほんの数日前のことであった。
 日の本の鬼の一族の中では男鬼の出生率が高い為、腹の中にいる赤子が二人とも男であったならばどうしようかと悩んでいたのである。
 二人のうち、一人はどうか女鬼であってほしい――
 一族の頂点に立つ男の妻の肩には、全身が動けなくなるような程に、里の仲間たちの『期待』という重圧感が乗せられていた。
「皆の期待に応えられて良かったです」
 双子の顔を交互に見つめながら微笑む妻に、雪村の頭領も柔らかな笑みを零す。
「皆は本当にどちらでも良かったのだぞ。このひと月の間にお前がどんどん痩せていくものだから仲間も心配をしていた。……要らぬ気を遣わせてしまったとな……」
 夫の言葉に妻が苦笑にも似た表情を向ける。
「今思えばどちらでも良かったのだと思います。ただやはり、


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