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『……え?今何て言った?』




朝起きるなり呼び出しを食らった私は、呼び出してきた相手であるベル姉ことベルモット姉さんの言葉に耳を疑った。




「だから、ライとバーボンとスコッチが薬で一時的に子供になっちゃったから、その面倒を見て欲しいって」




「ジンからの伝言よ」と淡々と告げたベル姉は、最後に「よろしくね」と可愛くウインクをすると立ち去って行った。

たった一言だけ言われて一人部屋に取り残された私はただただ呆然。
が、入れ替わりで聞こえたバタバタという足音に現実を突きつけられる。




「アマレット〜!ジンが今日はアマレットと一緒に過ごせって!」


「…戻るまでだろ?」


「いつ戻るんでしょうね」


『……マジで言ってる?』




見覚えのあるようなないような三人の子供の姿に、それ以上の言葉が見つからなかった。




ウィスキートリオの世話をする


──




『嫌な予感はしてたんだよね〜』




呼び出し先のセーフハウスにあったソファに腰掛ける。
私の手には現金3万円とこの家の鍵。鍵はベル姉から、お金は昨日ジンから手渡されたものだ。




『突然お小遣い渡されて「明日は休暇だ」って。絶対何かあると思ったんだよ』


「殺しの仕事よりマシなんじゃないですか?」


『…バーボン、見た目がそれで中身がそのままだからすごく不気味だね』




鍵をくるくる回していたら隣に座ってきたバーボン。背丈は私の腰よりも低く、見た目だけなら5歳くらいだろうか。もともと顔が可愛い人だから、その口から漏れた言葉が余計に怖い。

“嫌な予感”の前触れがあったのは昨夜。仕事から戻った直後にジンから声を掛けられ、休暇の知らせを受けたのが始まり。電話ではなく直接来た上にお金までくれたから絶対に何かあると踏んでいたが、まさかこんなことになっているとは。




『薬の実験だか何だか知らないけど、後処理が面倒だからってわたしに押し付けないで欲しいわ…』


「他に適役がいないし仕方ないんじゃね?」


「まさかジンとこの姿で過ごすなんて嫌だしな…」


「かと言ってベルモットやキャンティが引き受けてくれるわけもないですしね。良くてウォッカでしょう」


「ウォッカも嫌だよ〜気まずい〜」


『三人が戻るまでこの家で大人しくしてれば良いだけの話じゃないの?』


「薬の効果の確認だから、何かあったときの連絡係を兼ねて誰かしら傍にいて欲しいそうだ」


『へえ…』




ざっくりとした事情はライから聞いた。彼は小さくなっても髪が長いらしい。

彼ら三人は今日の朝、ベルモットから渡された“スポーツドリンク”を飲んでからこうなったと。無色透明で変な味はしなかったが、飲んだ後に突然胸が痛み体が熱くなり、気が付いたら体が縮んでいた。それも三人とも。嫌な予感が当たったのはお互い様のようである。

実験だしある程度結果は予測していただろうから、ジンはその上で彼らの様子を見るという仕事を“休暇”という名前で私に押し付けてきたのだろう。
要するに、ここにいる全員が実験の被害者。


ひとまず家の鍵をポケットに入れ、代わりに机の上に置いてあったメモ書きを手に取る。殴り書きで「効果は二日も持たない」「何か変化があったら連絡しろ」とだけ書かれていた紙切れ一枚。筆跡からしてジンが書いたものと思われるが、よくもまあこんなもので説明になっていると思えたものだ。

読んでいる間にバーボンとは反対側のスペースにスコッチがやって来て、更に床に座っていたライが私の膝の上によじ登ってきた。




「お前どこ乗ってんだ!」


「お前らが両脇にいたらここくらいしか空いてないだろう」


『見たいなら順番に見せるって…ほら』




早速バーボンとライが喧嘩気味で軽く溜息。中身が変わらないのだから、この人達の関係も全く変わらない。効果は二日持たないと書いてあるがいつになったら戻るのやら。

そういえば彼らの着ている子供服は一体誰がいつ用意したんだろうとか、急に戻ったら服が破れるのだろうかとか。全てを諦めた私はそんなことを悶々と考え始める。
そもそもの話、私はこの三人とはそんなに付き合いがない。ライはもともと口数が多いタイプではないし、バーボンとスコッチに至っては一緒に仕事をしたことすらない。
急に二日間共に過ごせと言われてもいまいちどう過ごしたら良いのか分からないのだ。もはや子供であることは関係ない、まずそこからである。