総集編

カーテンから漏れ出る光で目が覚めた。のろのろとベッドから起き上がり、洗面台で顔を洗って化粧水で肌を整えてから通勤服に着替えた。リビングに行くと、弟のカズヤがコーヒーとハムサンドを用意してくれていたのでTVのニュースを見ながら食べた。

「ナマエ、今日は出勤前に遊星達のところに行ってくる」

先に朝食を終えたカズヤはお皿を片付けながら言う。アノ日以来、カズヤは遊星くん達と仲良くなっていた。カズヤは私に対するコンプレックスを拗らせて、モーメントを暴走させようとしたテロリストで今もなお治安維持局の監視下に置かれていたりする。そんなカズヤの暴走を止める為に私に協力してくれた遊星くん達をカズヤは信頼していて、よく遊星くん達のところに遊びに行っていた。勿論、モーメントの元研究員だったカズヤはD・ホイールの整備が出来るので歓迎されていたりする。ただ、私と彼らにはわだかまりがある。なにせ……。

「それはいいけど……今日でゴドウィン長官がいなくなってから半年よ」

そう。ゴドウィン長官は亡くなった。彼は結局運命に抗えなかった。ゴドウィン長官を倒したのは遊星くん。世界が滅ぶ危機にあったから仕方ないのだけれど、どうしても彼を許せない気持ちがある。だって、それ程ゴドウィン長官を私は慕っていたから。本来ゴドウィン長官のやりたかった「5000年周期の赤き龍と邪神との闘いの終結」を遊星くんが代わりにやり遂げてくれたんだと思い込もうとしても私には無理だった。
遊星くんのことは勿論人として好きだけど、私には一生ソレが付きまとうと思う。私が精神的に成長したって、彼と良好な信頼関係を作ったって一生変わらない。万が一私がソレを受け入れたって私が成長したとは思わない。「私が変わった」になってしまう。

「兄のルドガーさんもな」

「そうね」

兄弟の絆が崩壊したゴドウィン長官は遊星くんのお陰でルドガーさんと共に光となって旅立った。兄弟の絆、そして私達姉弟の絆を取り持ってくれた遊星くん達には感謝しなくちゃいけない。

「遊星くん達に何か手土産でも持って行って」

照れ臭くて、カズヤの方を見ないようにコーヒーをすすりながら言うとカズヤはえっと声を上げた。私が彼らに気を使うのが珍しくて驚いているのかもしれない。

「勿論、ジャック様がいるからよ。別に遊星くんの為じゃないから」

実はジャック様がデビューした時からのファンの私はジャック様をどうしても贔屓目に見てしまうところがあった。

「はいはい。わかったよ。元キングは何が好きなのかな」

「カップ麺よ。お土産なら変わり種をよろしくね」

「うっわ。似合わねぇ」

サテライト出身の名残なのか、意外と舌が庶民なところがジャック様の素敵なところでもある。だって、あの美貌とスタイルでカップ麺なんてギャップがあり過ぎて素敵。
ハムサンドを食べ終え、食器をシンクにおく頃には歯磨きを終えたカズヤは通勤鞄を片手に笑顔でじゃあなと私に手を振った。

「いってらっしゃい」

「行ってきまーす」

すっかり優しくなった弟を玄関まで見送り、私も通勤の準備を始めた。
化粧を終え、部屋を出る準備が終わった頃、居ても立っても居られずにドレッサーにあるジュエリーボックスに大事にしまっていたロケットペンダントをそっと取り出した。ペンダントの蓋を開けると、プレートには若かりし頃のお母さんの写真が貼ってあり、ふっとドレッサーの鏡を見ると今の私の顔とそっくりだった。
へっぽこデュエルしか出来ない私が治安維持局に入社出来たのは、私がお母さんに似ていたからなんだと、このペンダントを見る度に思い出してしまう。
ゴドウィン長官はお母さんを愛していた。長官は何故かお母さんの旧姓で私を呼ぶことが何度かあった。長官は私のことをお母さんとして見ていたのだろう。だから、私だったら長官の暴走を止められたのかもしれないとたまに思い出しては後悔してしまう。愛した人の言葉なら長官は聞いてくれたのかもしれない。その後悔による不快な感情を消すように私は遊星くんを恨んでしまう。遊星くんにしてみれば、嫌なものだろう。何一つ間違ったことをしていないのに恨まれるなんて。
ペンダントを首に括ってシャツの中に入れると、ひやりとした金属の冷たさを肌に感じた。